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Beating 第36号
2007年度Beating特集「5分で分かる教材評価講座」
第2回:すべてはここからはじまった 〜『セサミ・ストリート』ゼロからの挑戦〜

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  東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」   
  メールマガジン「Beating」第36号     2007年5月29日発行    
                        現在登録者1381名   
  2007年度Beating特集「5分で分かる教材評価講座」
   第2回:すべてはここからはじまった
              〜『セサミ・ストリート』ゼロからの挑戦〜

           http://www.beatiii.jp/?rf=bt_m002a
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皆さまこんにちは。

新緑のまぶしい季節となりましたが、お元気でお過ごしでしょうか?
ゴールデンウイークも終わり、しばらく祝日が無い日々が続きますが、心地よ
いこの季節、心地よく事をすすめられるといいですね。新年度にも慣れてきた
ところで、色々始動する時期ではないでしょうか。BEATも公開研究会が近々開
催!その他プロジェクトも始動しています。

それでは、2007年度Beating第36号のスタートです!

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┃★CONTENTS★
┃■1.  特集:2007年度Beating特集「5分で分かる教材評価講座」
┃    第2回:すべてはここからはじまった
┃             〜『セサミ・ストリート』ゼロからの挑戦〜
┃
┃■2. 【お知らせ】公開研究会「BEAT Seminar」2007年度第1回:
┃                         〜6/2(土)開催!
┃
┃■3.  編集後記
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■1. 特集:2006年度Beating特集「5分でわかる教材評価講座」
   第2回:すべてはここからはじまった
              〜『セサミ・ストリート』ゼロからの挑戦〜
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今年度のBeatingでは、BEATの研究をより理解していただくため、学習の「評
価」についてさまざまな観点から紹介し、一年間で皆さまと一緒にその秘訣を
探っていく「5分で分かる教材評価講座」を開講いたします。

昨年度までのBeatingでは、さまざまな学習理論を学び、さらにそれらを土壌
にした世界各地のプロジェクトを紹介してきました。

昨年度のBeatingバックナンバー 
http://www.beatiii.jp/beating/?rf=bt_m002a

でも、いくら教材やカリキュラムを作ったとしても、それらが学習に効果的だ
と言えなければ意味がないですよね。教材開発者や教師、研究者だけでなく、
例えば企業研修担当者であれば、研修の効果は何かを受講生やその上司、経営
者に説明することが求められるでしょう。

それでは、それらが「うまくいった」と言うにはどうしたらいいのでしょう?
「僕らのプロジェクトは成功でした!」と自信を持って報告するためには、ど
うしたらいいのでしょう?そこで重要なのが「評価」なのです。今年度のBeat
ingでは、この「評価」に着目し、見事に成功しているプロジェクトを紹介し
ながら、そこで行われている評価の仕方を学んでいきます。

第1回目の4月号では、「そもそも評価とは何か、なぜ必要なのか」ということ
で、評価の重要性や意味について、ざっくりと概要をお話いたしました。
第2回目の今回取り上げる事例は、世界で最も有名な教育番組、「セサミ・ス
トリート」です。


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第2回:すべてはここからはじまった
              〜『セサミ・ストリート』ゼロからの挑戦〜
ケーススタディ1:セサミストリート【教材評価】
ポイント    :"Collaboration"、"Formative Research"、
         "Summative Evaluation"
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■世界一有名な教育番組、セサミ・ストリート成功の秘訣
1969年にアメリカで始まったこの番組は、あっという間に子どもたちを虜にし
ました。その特徴としては、複数の短いセグメントによって構成されているこ
と、楽しい音楽やかわいい人形たちが登場することが挙げられます。これらの
特徴には一つ一つ意味があり、緻密に準備されたものでした。テレビの教育的
意義としても社会に衝撃を与えた、この素晴らしい教育番組はどのようにして
作られていったのでしょうか?

今回は、セサミ・ストリートを成功に導いた秘訣に迫っていきたいと思います。


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■貧困な家庭の幼児たちに充実した教育を届けたい
1968年、当時ドキュメンタリー番組のプロデューサーだったジョーン・ガンツ
・クーニーと、カーネギー財団副理事長のロイド・モリセットは、不安定な社
会情勢を憂い、アメリカの未来を担う子どもたち、特に、都市部の貧困な家庭
の、就学前の幼児たちに充実した教育を提供する必要性を感じていました。
そこで、幼児が長時間視聴しているテレビの教育利用に着目しました。

アメリカの公共放送法人CPB(Corporations for Public Broadcasting:日本の
NHKのような位置づけ)や、カーネギー財団、フォード財団といった大きな財団
から支援を受け、クーニーたちは、それまでの視聴率に縛られた幼児向け番組
とは違った「教育のためのテレビ番組」を制作するための大きな第一歩を踏み
出しました。

クーニーを代表とした非営利団体、CTW(Children's Television Workshop)
がスタートを切ったのです。


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■「教育のためのテレビ番組」を作るには −"Collaboration"−
CTWを設立し、第一歩を踏み出したと言っても、テレビの教育番組を制作する
際、参考や裏付けにできる具体的事例はほとんどありませんでした。CTWの歴
史的な偉業は、まったくのゼロから始まったのです。

まずクーニーたちは、プロデューサーと教育の専門家、調査研究員の三者に同
等の立場を与え、互いに連携させることからスタートしました。
番組制作においてプロデューサーの権限が絶対的だった当時、三者が対等な関
係をもつことなど考えられないことでした。しかしクーニーたちは、番組がプ
ロデューサーの好みや経験のみによって制作されるのではなく、素材の魅力と
教育的な価値が、実際に視聴対象者に行ったテストのデータによって裏付けら
れた上で制作されることが何よりも大事だと考えていたのです。

こうして、発達心理学者でハーバード大学教授のジェラルド・レッサー(教育
の専門家)、人気番組「キャプテン・カンガルー」のプロデューサーだった、
デビッド・コンネル(プロデューサー)、エドワード・パーマー(調査研究員)
らが、各ポジションのリーダーとして迎えられました。

この三者が日頃から情報交換をすることで、教育の専門家の知見をプロデュー
サーが形にし、調査研究員がその教育効果を実際に測定するサイクルがうまく
まわっていったのです。


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■子どもを夢中にさせる法則をさがせ −"Formative Research"
CTWの設立から1年、テレビ史上初の、革命的な幼児向け教育番組がブラウン管
に登場しました。番組が始まってすぐ、幼児に限らずアメリカ中の子どもたち
は、まるで魔法にかかったように夢中になりました。

それもそのはず。これらの「魔法」はすべて、事前の緻密な調査により導き出
された法則に則ったものだったのです。

番組を作る際に、調査研究員のパーマーたちは各セグメントに対し、幼児たち
の視聴態度を調査しました。その方法は、幼児たちの視線がテレビに向いてる
か否かの時間をグラフに表し、その結果をプロデューサーと一緒に詳細に分析
していくというものです。

幼児の興味を誘う要素として、下記の効果を調べていきました。
 ・様々な形態の音楽の効果
 ・もっともふさわしいペース
 ・くりかえしの最適な回数
 ・目立つキャラクターや覚えやすいキャラクター
 ・カメラアングルやスローモーションといった、特殊技術の効果
 ・チグハグさと予測可能性の相対的な効果

これらの観察から、番組に必要な特質や要素が明らかになりました。効果の見ら
れなかったセグメントは随時、改善・修正していったので、セサミ・ストリート
の「魔法」が衰えることはありませんでした。

この入念な事前調査を、パーマーたちは"Formative Research"と呼んでいます。
このFormative Researchこそが、セサミ・ストリートの成功に導いた画期的な
手法なのです。
前回のBeatingで"Formative Evaluation(形成的評価)"を紹介しましたが、
もともと、「より良いモノを作っていくために、形成段階で評価をしていこう」
という考え方は、1963年にCronbachが提唱し、1967年にScrivenがFormative 
Evaluationと名付けました。パーマーたちはこの考え方を利用し、"Research"
という言葉を当てはめたのです。


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■セサミ・ストリートは誰のために役立ったのか −"Summative Evaluation"−
あっという間に人気番組になったセサミ・ストリートですが、子どもが誤った
文法や語彙を覚えてしまう、落ち着きのないテンポが子どもに悪影響を与える
等の批判的な声もありました。

そのような批判への対応として、さらには多額の資金を援助してくれた多くの
団体や公衆に対する説明責任としても、セサミ・ストリートはその有効性を示す
必要がありました。総括的評価はとても重要なポジションを占めていたのです。

総括的評価は、「この番組は誰に役立ち、誰には役立たないのか」、「どんな
条件下で効果を発揮するのか、あるいはしないのか」という、詳細な効果に
答える必要があったため、調査の目的は具体的に決定されました。
 1.低所得層のサンプルにおける視聴傾向を、年齢、性別、家族の特徴
   により示す
 2.視聴に使われた時間がどのように他の活動に使われる時間と関連す
   るか明らかにする
 3.セサミ・ストリートの早期視聴が後の学校への準備にどう関連して
   くるか明らかにする

これらの目標のもと、低−中所得家庭の子どもを対象に、1日の時間の使い方や
視聴頻度に関する各家庭の視聴情報を集めたり、直接観察をすることで学習に
対する親の介入の影響やテレビ視聴の直接的な影響を調べていきました
(詳細は"G" is for Growing Chap.6 参照)。

その結果、番組のカリキュラムによって、就学前に必要とされるスキルが獲得
されること、親の関わりがあったほうがより高い効果を示すこと、恵まれない
家庭の子どもは番組の効果が最大限引き出るほど十分に視聴していないことな
どがわかりました。
詳細な総括的評価により、セサミ・ストリートの視聴実態や、より効果的な
視聴方法が明らかになったのです。


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■まとめ
というわけで、今回は「評価」を中心に、セサミ・ストリート成功の秘訣に
迫っていきました。
まず、教育の専門家とプロデューサー、調査研究員の三つのポジションが一体
となることで、入念なFormative Researchにより得られた幼児を引きつける様
々な要素を番組制作に返していくサイクルがスムーズにまわっていきました。
また、長い時間をかけた総括的評価で、セサミ・ストリートのより効果的な視
聴方法も明らかになりました。これを可能にしたのは、「誰のために役に立ち、
誰には役に立たないのか」、「いかなる条件のもとで効果を発揮するのか、あ
るいはしないのか」という詳細な目的を設定することでした。

セサミ・ストリートに関する書籍やウェブサイトは多く出回っていますので、
評価に限らず、もっともっと色々な面からセサミ・ストリートの虜になりたく
なった方は、ぜひ読んでみてください。



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●参考文献
『"G" is for Growing』(2001)
 Shalom M. Fisch & Rosemarie T. Truglio, LAWRENCE ERLBAUM ASSOCIATES
『セサミ・ストリート物語 −その誕生と成功の秘密−』(1974)
  ジェラルド・S・レッサー著(山本正、和久明生訳)サイマル出版会

●関連書籍
『セサミストリート百科−テレビと子どもたち』(1994)
 小島明著、教育史料出版会

●関連webサイト
『セサミストリートオフィシャルホームページ』
http://www.sesame-street.jp/
『テレビ東京 セサミ・ストリート番組ホームページ』
http://www.tv-tokyo.co.jp/sesame-street/index.html
『Sesame Workshop(元CTW)』
http://www.sesameworkshop.org/

(特集記事担当:坂本篤郎/東京大学 大学院 学際情報学府 修士1年)


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●「教材評価」に関する疑問・質問大募集!

今年度のBeatingでは、教材評価について日頃皆さまが疑問に思うこと、教材
評価講座を読んで湧き起こった疑問などを募集します。

寄せられた読者の皆さまの疑問・質問には、8月と12月にBeating「読者相談室」
にて、山内祐平(東京大学大学院 情報学環 准教授・BEAT併任)と北村智
(BEAT客員助教)がお答えする予定です。

熱い議論をご期待下さい!

疑問・質問の宛先はこちらのアドレスになります。
 contact@beatiii.jp

件名に『【Beating】「教材評価」に関する疑問・質問』と明記し、お送り下
さい。ご応募お待ちしております。


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では、「5分でわかる教材評価講座」次号もどうぞお楽しみに!
ご意見・ご感想もお待ちしております。


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■2. 【お知らせ】「2007年度 第1回 BEAT Seminar 」のご案内
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2007年度第1回となる6月のBEAT公開研究会は、
 「知育玩具-創造的制作活動をアフォードする人工物」
というテーマで開催します。

情報通信技術の発展により、昔から連綿と続いてきた知育玩具の世界にも
大きな変化が起こっています。インタラクティブな、創造性を培うための
環境が続々と開発されています。LEGOがインタラクティブテクノロジーと
結びついたLEGO Mindstormはその代表的な例といえるでしょう。

今回のBEAT Seminarでは、LEGO MindostormsをはじめとするMITで開発され
た様々な知育玩具と背景にある「Constructionism」の考え方を共有し、
学びをささえる「モノ」のあり方について考えていきます。

—————————【2007年度 第1回 公開研究会 概要】————————
■テーマ
 「知育玩具-創造的制作活動をアフォードする人工物」

■主催
  東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座

■日時
  2006年6月2日(土)午後2時より午後5時まで

■場所
  東京大学 本郷キャンパス 工学部2号館北館 9階 92-B教室
http://www.beatiii.jp/seminar/seminar-map30.pdf?rf=bt_m002

■定員
  70名(お早めにお申し込みください)

■参加方法
  参加希望の方は、BEAT Webサイト
http://www.beatiii.jp/seminar/?rf=bt_m002
  にて、ご登録をお願いいたします。

■参加費
  無料

■内容
1. 趣旨説明 14:00−14:10
  BEAT 准教授 山内 祐平

2. 講演 14:10-16:00
  ●MITメディアラボの知育玩具開発〜「Topobo」を中心に
     佐藤 朝美氏 (東京大学大学院 学際情報学府)

  ●「レゴ マインドストーム NXT」「ピコクリケット」の紹介
     石原 正雄氏(株式会社ラーニングシステム 代表取締役社長)

▼休憩+「レゴ マインドストーム NXT」「ピコクリケット」体験

  ●クリケットワークショップにおける学び〜大川センターと小学校の実践から
     森 秀樹氏(株式会社 CSK ホールディングス)

3. フロアディスカッション 16:00-16:30

4. パネルディスカッション 16:30-17:00
 「人工物・創造的活動・学習を結びつける鍵は?」
  司会:山内 祐平
  パネラー 佐藤 朝美・石原 正雄・森 秀樹


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■3. 編集後記
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

Beating第36号はいかがでしたでしょうか。

育児をする中で、「テレビに子守をさせてはいけない!」をはじめとする幼児
のテレビ視聴に関する指摘に多々出会いました。そこで、一緒に見ること、さ
らに番組を通して会話することが大切であると聞きましたが、これは、教育効
果という点からも大変重要なポイントだということですね。もう何十年も前に
セサミ・ストリートで検証されていたということに驚きです。

けれど、子どもに付き合って見てあげなくては!というよりはむしろ、最近の
日本の幼児番組も、思わず大人も引き込まれていく魅力があると思います。

『にほんごであそぼ』(NHK)のデザイン担当の佐藤卓さんは、映像で文字の美
しさも伝えたいと、番組用にフォントを全て作り直したそうです。デザイナー
として、子どもによりクオリティの高いものを見せたかったという意気込みを
聞く機会がありました。番組一つ一つに小さなセサミ物語があるのでしょうね。

一方、海外ニュースの政治目的に子ども番組を利用している映像を見、影響力
とその効果を考えると心が痛みました。多チャンネル化時代、子どもにどの番
組を見せるか、その選択も親の重要な義務だと気の引き締まる思いをしました。

では、来月のBeatingもお楽しみに。

                        「Beating」編集担当
                             佐藤 朝美
                         satomo@beatiii.jp


-------次回発行は6月第4週頃の予定です。
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「Beating」編集担当
佐藤 朝美(東京大学大学院 学際情報学府 山内祐平研究室 博士課程1年)
satomo@beatiii.jp

□「BEAT」公式Webサイト
http://www.beatiii.jp/?rf=bt_m002b

□発行
東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」

Copyright(c) 2007. Interfaculty Initiative in information Studies,
The University of Tokyo. All Rights Reserved.
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