Beating 第44号
2007年度Beating特集「5分で分かる教材評価講座」
第10回:統計基礎知識と書籍紹介
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」
メールマガジン「Beating」第44号 2008年 1月29日発行
現在登録者1532名
2007年度Beating特集「5分で分かる教材評価講座」
第10回:統計基礎知識と書籍紹介
http://www.beatiii.jp/?rf=bt_m010a
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
皆さまこんにちは。
いよいよ2008年がスタートしました!!新たな年が始まり、節分、バレンタイ
ン、ひな祭り…と、行事が重なりますね。BEATの本拠地である情報学環の研究
室も2〜3月の福武ホールへのお引越しに向けて準備が始まっています。
2008年にはどんなことが起きるのでしょうか?今年もBEAT共々Beatingを
どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、2007年度Beating第44号のスタートです!
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃★CONTENTS★
┃
┃■1. 特集:2007年度Beating特集「5分で分かる教材評価講座」
┃ 第10回:統計基礎知識と書籍紹介
┃
┃■2. 【お知らせ】なりきりEnglish!プロジェクトの記事掲載のお知らせと
┃ 「英語deキャリアアップ」のご紹介
┃
┃■3. 編集後記
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■1. 特集:2007年度Beating特集「5分でわかる教材評価講座」
第10回:統計基礎知識と書籍紹介
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
今年度のBeatingでは、BEATの研究をより理解していただくため、学習の「評
価」についてさまざまな観点から紹介し、一年間で皆さまと一緒にその秘訣を
探っていく「5分で分かる教材評価講座」を開講しています。
2007年度Beating特集「5分で分かる教材評価講座」も10回目となりました。
今年度のBeatingでは、様々なプロジェクトの評価方法についてケース
スタディをしてきました。多くの事例において、新しく開発した教材が
「効果があったかどうか」を調べるために、統計的な手法を用いて検証して
いました。
今月号では、この"評価を行うために避けては通れない「統計」"について取り
上げたいと思います。そもそも統計とは何なのか、なぜ必要なのか、どのよう
な手法があるのか、ということについて簡単に触れ、これらを一通り勉強する
ための書籍の紹介をしたいと思います。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第10回:統計を学ぶための書籍紹介
理論紹介1:統計基礎知識
------------------------------------------------------------
■統計とは何か、なぜ必要なのか
●これまでにケーススタディで見てきたプロジェクトにおいて、教材開発に
おける様々な鋭い知見が生み出されていました。このような優れた知見が
生み出されるためには、優れた研究者の豊富な知識や論理的思考、直感などが
必要であることは言うまでもないでしょう。
しかし、もしそれだけだったとしたら、「それはあなたがそう思っているだけ
でしょ」という話で終わってしまいます。調査者の主観性をできるだけ排除
し、客観的な科学的根拠を示すことによって初めて、研究の結果は確かな
知見として成立します。
その、客観的な科学的根拠を示すために有用な道具として登場するのが統計
です。開発した教材やツールがどの程度効果のあるものだったのか、どのよ
うな要素と要素の間に関連性があるのか、あるとするならばどの程度の強さの
関連性なのか、実際にデータをとって調べ、数値によって一定以上の
「確からしさ」があることを示すのです。
●「統計をとる」という作業には3つのステップが存在します。
まず第1ステップとして、適切な方法で適切なデータを収集しなければなりま
せん。次に第2ステップとして、集めたデータに対し、研究の目的やデータの
性質に合った、適切な分析を行い、その結果を示します。結果を示す際は、
やはり主観性を排除した客観的な記述によって分析結果を報告する必要が
あります。そして最後に第3ステップとして、統計処理の結果、どの程度の
確からしさで仮説が支持されたのかということを検定する必要があります。
それぞれ、データを収集するために選んだ方法や分析するために選んだ方法
は、研究の目的やデータの特性に合った適切なものであったのかどうかが、
分析をして得られた結果が妥当なものであるかどうかに影響してきます。
すなわち、統計的な手法を用いて客観的な根拠を示すためには、どんなデータ
を、どういう理由から、どういう手法を用いて分析すればよいのかという統計
の知識を得る必要があるというわけです。
(参考:『本当にわかりやすい すごく大切なことが書いてあるごく初歩の
統計の本』序章1節「統計とは何か、そして、統計はなぜ必要か?」)
------------------------------------------------------------
■統計を学ぶためのブックレビュー
●さて、このように、なぜ統計が必要かということについて簡単に説明してき
ました。では実際にその様々な手法を学ぶにはどうしたらよいのでしょうか。
これは、コツコツ積み上げていくほかありません。特集記事は「5分でわかる」
というタイトルですが、残念ながら統計の基礎知識を5分で理解することは
不可能なのです。
そこで今回は、統計にあまり詳しくない人向けの入門書から、ある程度理解し
た人が学び直しに使えるものまで、5冊の本をご紹介したいと思います。
簡単なものから順に、書籍情報(タイトル、著者、出版社など)オススメ対象、
本の概要とポイントを簡単にまとめてみましたので、レベルに合わせて参考に
していただければと思います。
1『統計学がわかる
〜ハンバーガーショップでむりなく学ぶ、優しい統計学〜』
向後千春・冨永敦子(著)、技術評論社(2007)
【オススメ対象】
具体的な事例をもとに基礎知識を学びたい人
【本の概要】
初学者でも統計学を気軽に読めて楽しく学べる本。
平均と分散、カイ2乗検定、t検定、分散分析(1要因・2要因)について、
専門用語も平易な言葉で分かりやすく解説しています。
【本のポイント】
品質のばらつきやアンケート集計の結果など、ハンバーガーショップで
起こる統計的な疑問の数々を、登場人物たちと一緒に悩み、一緒に解決し
ていく流れとなっています。
まさに、アンカードインストラクション(「Beating」第19号)!?
http://beatiii.jp/beating/019.html
また、具体的なポテトの本数やサンプル数を使って考えていくので、取り
付きやすく、計算はExcelの表で表示、分布表は使用するページに掲載され
ているので、付録と見比べることなく、順次にページを読み進められる
ことも、初学者にはありがたいつくりになっています。
さらに、Excelデータは一括ダウンロードもできるようになっていて、
至れり尽くせりです。
http://gihyo.jp/book/2007/978-4-7741-3190-0/support/
ちなみにこの書は、向後先生が実際に授業で使われたWeb教材の書籍化を
したものだそうです。こちらはExcelデータ入力方法まで説明してありま
す。さらに、至れり尽くせりです。
http://kogolab.jp/elearn/hamburger/
2『本当にわかりやすい すごく大切なことが書いてある ごく初歩の統計の本』
吉田寿夫(著)、北大路書房(1998)
【オススメ対象】
これから統計の学習をはじめる人
基本的な概念をもう一度おさらいしたい人
【本の概要】
タイトルの通り、統計の基本概念が丁寧に解説されている本。
高度な分析法については触れられていませんが、
基本的なところは網羅されています。
練習問題と細かな解答も用意されているので実際の使い方も学べます。
【本のポイント】
上で参考にしたような、「統計とは何か」というところから親切に教えて
くれる入門書です。これから統計の勉強をはじめる方にもイメージ
しやすいよう、噛み砕いた言葉と図によって解説されています。
「Σ(シグマ)の記号の意味」などといった、ある概念の考え方や意味
についての説明が全体を占めていますが、章の最後には練習問題がある
ため、具体的な使い方についても学ぶことができます。1の『統計学が
わかる』と比較すると若干堅めの文章ではありますが、より細かく丁寧に
解説されています。高度な分析法より、基本的なものを把握するための
本です。
3『統計分析のここが知りたい 保険・看護・心理・教育系研究のまとめ方』
石井秀宗(著)、文光堂(2005)
【オススメ対象】
実際に研究で統計を用いたい人
【本の概要】
研究で統計を用いる際の考え方という観点からつづられている本。
その手を法用いる条件や注意点について触れられているので、
実際に統計を用いる際に気をつけなければ行けない点を確認しながら
勉強するのに良い本です。
【本のポイント】
有意であるとはどういう事か、どれくらいのサンプル数が必要か、などと
いった、統計を使って研究をする際の考え方について詳しく述べられてい
ます。研究計画を立てる手順に加え、たり、分析をする際の細かな注意点、
注意しなければいけない理由などがわかりやすく書かれているため、
これから実験計画を立てたり、得られたデータをどのように分析していく
かを考える際に手元にあると助かるのではないでしょうか。
4『心理統計学の基礎 〜統合的理解のために〜』
南風原朝和(著)、有斐閣(2002)
【オススメ対象】
統計学の基礎の基礎は勉強した人
統計学をしっかりと学習したい人
【本の概要】
この本は、心理学研究法の一環として学ぶ統計学の解説書です。
心理学の研究を行う上で必要となる統計学の理論と方法、
およびその基礎となる考え方を、心理学の研究に特有の問題に
留意してわかりやすく実践的に解説してあります。
【本のポイント】
心理統計学はひとつの大きな知識体系ですが、学ぶには4つの方向性があ
るようです。
1.分析手続きに関する知識・スキルの習得
2.理論や方法の数学的理解
3.理論や方法の概念的理解
4.心理学研究とのインタフェースに関する知識・スキルの習得
本書では、4の心理学的な研究仮説から統計的に検証可能な予測を導いた
り、統計的な分析結果から、心理学的な研究仮説に関して妥当な結論を導
いたりすることができることを目標の中心に設定してます。また、目標達
成のために、3の統計的理論・方法の概念的理解にも重点をおいています。
構成としては、具体的な心理学研究の文脈に沿って、統計的概念や方法を
互いに関連付けながら解説してあります。また、方法間に共通する基本原
理を軸に、統合的な理解をはかり、統計の適用に伴う方法論的問題につい
ても十分議論がされています。「統計をよく知り、うまく使って心理学研
究ができる人」の育成を目指した書なのだと思います。
5『Q&Aで知る 統計データ解析 DOs and DON'Ts』
繁桝算男・柳井晴夫・森敏昭(編著)、サイエンス社(1999)
【オススメ対象】
統計についてある程度理解し、より細かい点に疑問を持つようになった人
【本の概要】
平成6,7,8年に行われた教育心理学会のシンポジウムでのQ&Aをもとに
作られた本です。タイトルの通り、統計を用いる際の疑問に答えていく
形式となっており、疑問が生じる程度の理解をしている人向けです。
【本のポイント】
統計的な分析方法を、実際に得られたデータへ適用する際に生じる疑問点
に答えるよう、書籍全体が質問と回答形式で構成されています。
すなわち、ある程度統計について理解をし、疑問を持つようになってから、
より細かな定義の違いや、ある分析方法を適用する際の注意点などを
分かり直すために読むと良い本です。入門書では簡単に触れている程度の
定義や証明の過程についても再度学びなおすことができます。
------------------------------------------------------------
■まとめ
さて、今月のBeatingでは、教材を評価する際に避けては通れない統計につい
て学ぶために、そもそも統計とは何なのか、なぜ必要なのか、ということにつ
いて軽く触れ、難易度の異なる5冊の書籍を紹介してきました。
統計法とは、研究の結果導き出された結果を、客観的・科学的な根拠を伴った
知見として発表するために、集められたデータから意味のある情報を読み取り、
報告するための道具です。
すなわち、どのようにデータを集め、どの方法を用いて分析し、どのようにそ
の意味を読み取るのか、ということを判断できるようになるということが、道
具を使いこなせるようになるということです。
そのために、入門書から少しレベルの高いものまで、入り口の異なる5冊の書
籍を紹介しました。それぞれの本では、同じ事が切り口を変えて説明されてい
る場合が多々あります。初めは分からなかったところが理解できるようになる
と同時に、なんだかよく分からない、かゆいところができるようになります。
そうしたときに角度の違う本を読むことで、かゆいところに手が届き、すると
また別のところがかゆくなる。そうした分かり直しの連鎖によって、適切な分
析手法を用いることができるようになっていくのではないでしょうか。
------------------------------------------------------------
●参考文献
・『統計学がわかる』
(向後千春・冨永敦子 著、2007、技術評論社)
(Amazonはこちら http://www.amazon.co.jp/dp/4774131903/ )
・『本当にわかりやすい すごく大切なことが書いてある ごく初歩の統計の本』
(吉田寿夫 著、1998、北大路書房)
(Amazonはこちら http://www.amazon.co.jp/dp/476282125X/ )
・『統計分析のここが知りたい 保険・看護・心理・教育系研究のまとめ方』
(石井秀宗 著、2005、文光堂)
(Amazonはこちら http://www.amazon.co.jp/dp/4830644605/ )
・『心理統計学の基礎統合的理解のために』
(南風原朝和 著、2002、有斐閣)
(Amazonはこちら http://www.amazon.co.jp/dp/4641121605/ )
・『Q&Aで知る 統計データ解析 DOs and DON'Ts』
(繁桝算男・柳井晴夫・森敏昭 編著、1999、サイエンス社)
(Amazonはこちら http://www.amazon.co.jp/dp/4781909159/ )
(特集記事担当:坂本篤郎/東京大学 大学院 学際情報学府 修士1年)
------------------------------------------------------------
「5分でわかる教材評価講座」次号もどうぞお楽しみに!
ご意見・ご感想もお待ちしております。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■2. 【お知らせ】なりきりEnglish!プロジェクトの記事掲載のお知らせと
「英語deキャリアアップ」のご紹介
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
BEATの研究プロジェクトである「なりきりEnglish!」プロジェクトが
DAILY YOMIURI ONLINEに紹介されました。
Industrial English lessons:
Nippon Steel staff get tailored lessons by phone
(DAILY YOMIURI ONLINE)
http://www.yomiuri.co.jp/dy/features/language/
20080110TDY14002.htm
是非ご覧になってください!
また、なりきりEnglish!の研究知見を活かした社会人向け英語リスニング教材
「英語deキャリアアップ」を株式会社ベネッセコーポレーションと共同研究・
開発しました。 1月30日(水)よりポッドキャストで配信を開始する予定です。
どうぞお楽しみに!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■3. 編集後記
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
Beating第44号はいかがでしたでしょうか。
今月の特集記事では、統計を習得するためということで、入り口の異なるいく
つかの書籍の紹介がありました。それをうけて(大分系統は違いますが)、
私は思わず、我が家にある電車というKeywordで揃えられた様々な切り口の本
を思い浮かべてしまいました。
乗り物絵本にはじまり、プラレール、トーマスや図鑑、さらにDeagostini
の鉄道データファイルまで・・・。まさに切り口の異なる多種多様な本の差異や
細部まで、電車好きの息子の興味は止まらない様子でした。
本だけでは飽き足らず、近所の踏み切りに何時間もへばりついていたり、
江ノ電に乗るためだけに江ノ島に行ったり、ラピートに1駅区間乗るために
関西空港経由で海外に行く事にしたり、2階建てのE4系MAXやまびこに乗るため
に主人の出張について行ったり等、楽しい(!?)思い出は限りないのですが、
息子も色々な切り口から電車という1つの題材を見つめる事で、調査の基礎で
も身についてたらいいなぁ・・・なんて思うのは、まさに親馬鹿ですね。
それでは、本年もどうぞよろしくお願いします。
次回Beatingもお楽しみに。
「Beating」編集担当
佐藤 朝美
satomo@beatiii.jp
-------次回発行は2月第4週頃の予定です。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ご登録先は、ベネッセ先端教育技術学講座になります。
ご登録にあたって、お知らせいただいたお名前・メールアドレスなどの個人情
報は、ベネッセ先端教育技術学講座にて、「Beating」からのお知らせのためだ
けに使用いたします。また、ご本人の同意なく、第三者に提供することはござ
いません。
「Beating」はお申し込みをいただいた方々に配信しています。無断転載をご遠
慮いただいておりますので、転載を希望される場合はご連絡下さい。
□登録アドレスの変更、登録解除などはコチラ
http://www.beatiii.jp/beating/?rf=bt_m010
□ご意見ご感想はコチラ
「Beating」編集担当 佐藤 朝美
(東京大学大学院 学際情報学府 山内祐平研究室 博士課程1年)
satomo@beatiii.jp
□「BEAT」公式Webサイト
http://www.beatiii.jp/?rf=bt_m010b
□発行
東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」
Copyright(c) 2008. Interfaculty Initiative in information Studies,
The University of Tokyo. All Rights Reserved.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━