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Beating 第91号
2011年度Beating特集「@Eduなう!拡大版」
第9回:学習空間の違いが学習成果に与える影響

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東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」
メールマガジン「Beating」第91号     2011年12月27日発行
現在登録数 2,835名

2011年度Beating特集「@Eduなう!拡大版」
第9回:学習空間の違いが学習成果に与える影響

http://www.beatiii.jp/?rf=bt_m091

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みなさま、こんにちは!

今年も残すところあとわずかですね。
心静かにお正月が迎えられるように、まとまった時間をとって
データの分析やら執筆やらをかたづけないと…と思い、
必死で日々自転車を漕ぎ続けています。

今月号では、シリアスゲーム研究がご専門のBEAT特任助教・藤本徹さんが、
ご自身が翻訳された書籍「幸せな未来は『ゲーム』」が創る」
(ジェイン・マクゴニガル 著)を紹介してくれます。(必読ですよ!)

では、Beating第91号のスタートです!

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★CONTENTS★

【特集】2011年度Beating特集「@Eduなう!拡大版」
第9回:学習空間の違いが学習成果に与える影響

1.書籍紹介
「幸せな未来は『ゲーム』が創る」 ジェイン・マクゴニガル(著)
妹尾堅一郎 (監修)、 藤本徹 (翻訳)、藤井清美 (翻訳)、 武山政直 (解説)

2.お知らせ・UTalk
「生物が記録する科学 ―ウミガメ、マンボウ、オオミズナギドリ」のご案内

3.編集後記



特集─────────────────────────────────
━━ 2011年度Beating特集「@Eduなう!拡大版」
第9回:学習空間の違いが学習成果に与える影響
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■ 2011/10/28 18:54:31
http://twitter.com/#!/beatiii/status/129858576268271616
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──
解説
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(Brooks, 2011) 物理的な学習空間の違いが学習成果に与える影響の研究。
同一の科目を、従来型教室で授業を受けた学生よりも、アクティブラーニング
教室で授業を受けた学生の方が、授業の成績が有意に高い結果が示された。
http://t.co/9pt3TJNJ


■問題と目的

物理的な学習空間については様々な議論が行われていますが、学習成果に対する
影響を調査した、実証的な研究が不足しています。代表的な先行研究には以下の
2事例があります。

まず、ノースカロライナ州立大学のStudent-Centered Activities for Large
Enrollment Undergraduate Programs (SCALE-UP)の事例です。これは
1990年に始まったプロジェクトで、アクティブラーニングを促す教室の設備
としては、学生のための大きな丸テーブル、ノートパソコンのコネクション、
学生の成果を共有するためのプロジェクタ、授業内実験のための実験器具、
生徒用マイクロフォン(ミニマイク)が用意されました。対象となった授業は
物理学入門(calculus-based introductory physics courses)です。空間のデザ
インの他には、授業内の問題解決を促したり、教師と学生のインタラクションを
増加させたりするなど、協調学習の改善を目的に教育的なアプローチや教材が
徹底的に見直されました。

2つめは、マサチューセッツ工科大学の Technology Enabled Active Learning
(TEAL)プロジェクトです。対象となったのは物理コースの学部1年生向け
の授業で、授業方法と学習空間の両者を再設計しました。学習空間は、学生の
インタラクションと問題解決を促すためにデザインされたアクティブな学習環境
へと再設計し、特にソフトウエアに基づくシミュレーションや視覚化に焦点を
当てました。

どちらの先行研究も、導入後に学習成果が向上したと報告されていますが、問題
点として、コースの再設計と新しいアクティブな学習環境の採用を同時に行った
ため、どちらが、もしくは、双方が要因となって学習成果が向上したのかわから
ない点があげられます。

以上のことから、本研究を実施したミネソタ大学の the Office of Information
Technology(OIT)研究チームでは、フォーマルな学習環境が学習成果に影響を
与えるか否かを十分に明らかにするために、要因を統制し、体系的で正確性の
ある研究デザインを試みました。リサーチクエスチョンは「大学の授業で使用
される学習空間の違いは学生の学習成果に影響するか」で、伝統的教室とALC
(Active Learning Classroom)を用いて授業を行い、両者の学習成果の違いを
比較しました。


■方法

対象:2008年秋に入学したばかりの、生物学コースの初年時授業(Postsecondary
Teaching and Learning (PsTL)1131)を履修する1年生です。実験群には
ALC教室で授業を受ける学生43名が、統制群には従来通りの伝統的な教室で
授業を受ける学生43名が振り分けられました。

手続き:所属する研究室ごとに学生が振り分けられたため、ランダムに振り分け
ることはできませんでした。そのため、準実験デザインを用いました。どちらの
授業も授業時間、教材、課題、スケジュール、試験は同じで、空間以外の要因を
統制しました。

ALCの設備は、学生用に大きな丸テーブルを設置し、切り替え式のノートパソコ
ンを配置しスクリーンに映し出せるようにしました。他にも、2枚の大きなプロ
ジェクタスクリーンと学生のディスプレイに教師のフィードバック用の空間を
設置しました。伝統的教室には、ホワイトボード、プロジェクタスクリーン、
教室の前に教師のデスク、学生の机が前を向いて列をなすような配置をしました。

プレテストとしてACT(American College Testing)を使用し、ポストテストと
して、授業の最終成績を使用しました。ACTとは、大学入学前に行われる適性
能力テストで英語、数学、読解力、理科の4科目からなります。特に学部1年生
のアカデミック能力を測るのに安定していて標準的だと言われています。ポスト
テストとして使用する最終成績は、出席、特別グループプロジェクト、中間試験、
期末試験、研究室の評価を点数化し、その合計で表しています。

今回は、ACTスコアから授業の最終成績を予想します。そして、期待される成績
の平均と実際の成績の平均を比較し、それぞれ学習空間での学習効果を測ること
としました。


■結果と考察

前述したように、授業を履修する学生は、所属する研究室ごとに振り分けられた
ため、ランダムに両群に振り分けることはできませんでした。そのため、プレテ
ストであるACTスコアの平均は、伝統的教室の方が高く、有意な差がありまし
た。したがって、ACTスコアから期待される最終成績(ポストテスト)も、伝統
的教室の方が高いと予想されました。しかし、実際の成績の平均は、伝統的教室
とALCでは有意差が見られず、同程度の成績でした。期待された成績の平均と
実際の成績の平均の差を比べると、ALCのほうが約11.5倍高くなりました。
したがって、伝統的教室と比べて、ALCでの学習は、ACTスコアから予想され
る成績を大きく上回ったといえます。

この結果から、ALCで学び、かつ、ACTスコア(プレテスト)が著しく低かっ
た学生は、ALCの環境が要因となって、伝統的教室の学生よりも、学習の効果が
高かったといえるでしょう。

次に空間が、ACTスコアと成績の関係に与える影響を評価しました。その結果、
伝統的教室においてもALCにおいてもACTスコアは成績を予想するのに有効で
あることが分かりました。しかし、予測の程度は、ALCでの学習は伝統的教室の
半分程度であり、ACTスコアよりも学習空間の要因がより大きく影響を与えて
いると推定されました。

以上の結果から、ACTスコアから最終成績を予測することへの信頼性を下げる
ことなしに、ALCは学生の学習成果に有意に影響するといえます。

本研究は、空間以外の要因を統制した初めての例として今後の研究に貢献する
でしょう。しかし、以下のようなことはまだ解明されていません。例えば、「物理
的空間のどの特徴が、ALCでの学びを促進するのか」「学生の認知的な学習経験
にどんな影響を与えるのか」「コースのレベルや科目による違いはあるのか」
「空間は学部教育の実践や態度にどのように影響するのか」「空間の違いによって
実践と態度にどのようなバリエーションが生じるのか」といったことです。
今後の研究が期待されます。


◎特集記事協力◎
末橘花/東京大学 大学院 学際情報学府 修士1年

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BEATはTwitterを利用して教育やICTに関する最新情報や、BEATに関する
情報を発信しています。Beatingで紹介している情報以外にも多くの情報を
発信していますので、Twitterをご利用のかたはぜひBEAT公式アカウント
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書籍紹介  ─────────────────────────────
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「幸せな未来は『ゲーム』が創る」
ジェイン・マクゴニガル(著)、妹尾堅一郎 (監修)
藤本徹 (翻訳)、藤井清美 (翻訳)、 武山政直 (解説)
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Beating読者の皆さま、こんにちは。BEAT特任助教の藤本徹です。
今回は、私が共訳者として10月に上梓しました「幸せな未来は『ゲーム』が創る」
を紹介させていただきます。本書は、2011年1月に米国で出版された「Reality is
Broken」の日本語訳で、最近、各分野で注目が集まっている「ゲーミフィケー
ション」(ゲームデザイン手法の社会的応用)の基本文献として広く読まれて
います。

著者のジェイン・マクゴニガルは、カリフォルニア大学バークレー校パフォー
マンススタディーズ専攻で博士号を取得して、現在はシンクタンクのインスティ
テュート・フォー・ザ・フューチャーでゲーム研究開発部門のディレクターを
務める気鋭のゲーム研究者/ゲームデザイナーです。日本語字幕付きのTEDでの
講演映像が公開されており、本書で論じられている内容の一部を著者本人が語っ
ています。

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Jane McGonigal「ゲームで築くより良い世界」(TED)
http://ow.ly/8a1LU
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本書ではまず、「ゲーム」の持つ要素や優れたゲームが引き起こす感情について
検討します。近年のポジティブ心理学や認知科学の研究成果を引用しながら、
ゲームがなぜ人を夢中にし、幸せにするかを考察しています。優れたゲーム
デザイナーたちによって生み出されたゲームによって、巨大なゲーマーコミュ
ニティが形成される状況や、そこで起きている多くの興味深い現象について、
あまりゲームに馴染みのない人にも理解できるように丁寧に解説しています。
そして、現実世界でゲームが繰り広げられる「代替現実ゲーム(ARG)」の事例や
がん治療、貧困根絶など、世界が抱える深刻な問題に取り組むためにデザインされた
社会変革のためのゲームの事例を紹介しています。ゲームデザインの枠組で社会
を捉え直し、「壊れた」現実の問題点を浮き彫りにして、人々が幸福になるよう
に現実をデザインしていくための「現実修復法」が示されています。

ネット上で何万人、何十万人もの人々がつながりを持ち、壮大な規模のことを
達成していたり、家族や友達同士での新たなコミュニケーションツールとなって
いたり、ゲームを通して人々の新たな関係が生み出されていることがさまざまな
事例を通して語られます。「仕事の生産性と幸福感」や社会問題解決のための
コミュニティ形成についても、ゲームデザインの観点で見ると、従来とは異なる
形で捉え直すことができるという著者の「ゲームデザイン思考」が惜しみなく
盛り込まれています。

書名から一見すると、ゲーマーやゲームに興味のある方向けの本だと思われるか
もしれませんが、むしろ社会変革や人々の活動のデザインに興味のある方向けに
書かれている本だと言えると思います。人々の幸せについての研究の話も豊富に
盛り込まれているので、幸福感や楽しさについて考えを深めたい方にとっても
よいきっかけが得られる本だと思います。

翻訳者として苦労のたえないプロジェクトでしたが、お読みいただいた方が
本書から何か示唆を得て、幸福感が高まるものになればと願いつつ翻訳いたしました。
500ページを超えるボリュームの読み応えある本ですので、お正月休みや週末の
おともに、ゆっくりお読みいただければ嬉しいです。
(藤本 徹)


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お知らせ UTalk ──────────────────────
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「 生物が記録する科学 ―ウミガメ、マンボウ、オオミズナギドリ」のご案内
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UTalkは、様々な領域で活躍している東京大学の研究者をゲストとして招き、
毎月開催するイベントです。カフェならではの雰囲気、空気感を大切にし、
気軽にお茶をする感覚のまま、ゲストとの会話をお楽しみいただける場と
なっています。

生き物に小型の機器を取り付け、彼らの目線でその謎にせまる
バイオロギングサイエンス。
1月のUTalkでは、海洋生物の不思議を追って世界各地を駆け巡っている
佐藤克文さん(大気海洋研究所・准教授)をお招きします。
調査プロセスや生物の知られざる生態についてお聞きします。


日時:1月21日(土)午後2:00-3:00

場所:UTCafe BERTHOLLET Rouge(東京大学 情報学環・福武ホール併設)
http://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/access.html

料金:500円(ドリンク付き/要予約)

定員:15名

申し込み方法:UTalkホームページ https://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/utalk/
の参加申込フォームに必要事項をご記入の上、お申し込みください。

※お申し込みの締め切りは1月11 日(水)までとします。
なお、申し込み者多数の場合は抽選とさせていただく場合がございます。
ご了承ください。


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 編 集 後 記 ──────────────────────
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Beating91号はいかがでしたでしょうか。

今回はBEAT特任助教の藤本徹さんに、ご自身が翻訳された「幸せな未来は
『ゲーム』が創る」を紹介していただきました。近年「ゲーミフィケーション」
ということばが注目されるようになり、仕事や教育へのゲームの活用に関心が
高まっています。親が子どもに発破を掛けるときに「ゲームばっかりやってないで
ちゃんと勉強しなさい!」ではなくて、「ゲームでちゃんと勉強やりなさい!」
と声をかける日も近いかも…ですね。

それから、Beating 90号に関しまして、お詫びと訂正があります。
Contentsのタイトルに一部誤植がありました。
正しくは「【特集】2011年度Beating特集「@Eduなう!拡大版」
第8回:協調的 eラーニングにおける社会的意識の支援 」です。

12月17日(土)に実施されたBEATセミナー「デジタル読解力を育てる情報
教育」のレポートは92号で報告しますので、どうぞお楽しみに。

それでは、また次号でお会いいたしましょう!
よいお年をお迎えください。

ご意見・ご感想をお待ちしております。


「Beating」編集担当 高橋 薫 (たかはし かおる) kaorutkh@beatiii.jp

-------次回発行は1月31日の予定です。

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□ご意見・ご感想は…
「Beating」編集担当 高橋 薫 kaorutkh@beatiii.jp
(東京大学大学院情報学環ベネッセ先端教育技術学講座 特任助教)

□「BEAT」公式Webサイト http://www.beatiii.jp/?rf=bt_m090c

□発行:東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」
Copyright(c) 2011. Interfaculty Initiative in information Studies,
The University of Tokyo. All Rights Reserved.

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