Beating 第102号
2012年度Beating特集「いまどきのミレニアムキッズ」
第8回:韓国における教育のスマート化ついて
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」
メールマガジン「Beating」第102号 2012年11月27日発行
現在登録数 3,112名
2012年度Beating特集「いまどきのミレニアムキッズ」
第8回:韓国における教育のスマート化ついて
http://www.beatiii.jp/?rf=bt_m102
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
みなさま、こんにちは!
秋も深まり朝晩だいぶ冷え込んできましたね。
季節の移り変わりとは対照的に、各メーカーが7インチ型のタブレット端末
を発表し、クリスマス商戦を前に市場はヒートアップの様相を呈しています。
書籍の電子化の広がりに伴い、携帯に便利な小型のタブレット端末の購入を
検討している人も多いのではないでしょうか。
さて、Beating特集「いまどきのミレニアムキッズ」第8回では、
「韓国における教育のスマート化」について取り上げます。
また、次回BEATセミナーのご案内も掲載していますのでどうぞお見逃しなく。
では、Beating第102号のスタートです!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
★CONTENTS★
【特集】2012年度Beating特集「いまどきのミレニアムキッズ」
第8回: 韓国における教育のスマート化
1. お知らせ・BEAT Seminar 2012年度第3回 BEAT公開研究会
「スマートテレビが変える家庭学習」開催迫る!
2. お知らせ・UTalk
「重装備化する住まい」のご案内
3. 編集後記
━━
特集 ────────────────────────────────
━━ 2012年度Beating特集「いまどきのミレニアムキッズ」
第8回:韓国における教育のスマート化
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
インターネットが一般家庭に普及するようになり、子どもの頃からあたりまえ
のようにインターネットやコンピュータを使いこなすデジタルネイティブと
呼ばれる世代が登場してきました。「いまどきのミレニアムキッズ」では、
そんな子ども達のメディア利用の現状と、これからの教育に何が求められて
いるのかを、研究者へのインタビューや最新の研究を取り上げながら探索して
いきます。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
- - - -
日本のお隣の韓国では、シンガポールと並んで教育のスマート化が進んでいます。
韓国のフューチャースクールには、日本から多くの視察者が足を運んでいるそう
です。2009年に実施された電子媒体環境でのリテラシーを測定するOECDのPISA
デジタル読解力調査では、韓国は参加した19カ国中で1位を記録しました。
韓国ではどのような理念のもとにスマート教育が推進されているのでしょうか。
今回は、韓国教育学術情報院(KERIS)が発表した「2011教育情報化白書」を
紹介します。
- - - -
韓国教育学術情報院(KERIS)2011教育情報化白書(日本語要約版)
http://www.keris.or.kr/english/whitepaper/WhitePaper_japan_2011_wpap.pdf
- - - -
------
解説
------
●概要
韓国では1980年代より政府が主体となって教育情報化を推進してきました。
初等・中等教育から高校、大学、生涯教育に至るまで、情報共有システムや
e-ラーニング環境、デジタル教科書開発支援体制の構築、またそれらを可能に
する学校インフラの整備や産業育成支援など、産学官が一体となり世界トップ
クラスの教育情報化の推進が行なわれています。
●スマート教育の推進
韓国における教育の情報化は、1980年代の視聴覚教育における学校コンピュー
ター強化支援を皮切りに、20年にわたり段階的に進められてきました。2000年
代前半からICTを活用した教育やe-ラーニング支援事業が法案として成立し、
現場でも活用されています。2011年からはICTを活用して学習の効率性を高め
ることで人材大国化を実現するために「スマート教育推進戦略」を実施してい
ます。
この「スマート(SMART)教育」は21世紀型スキル強化のために、
S…自己主導的な(Self-directed)学習方法、
M…動機付けられた(Motivated)学習方法、
A…学習者に合わせた(Adaptive)学習方法、
R…豊富な資料(Resource enriched)を持った学習方法、
T…ICTが埋め込まれた(Technology embedded)学習方法の
5つの学習方法を軸とし、教育の環境や内容、方法といった従来の教育体制の
刷新を図ろうというものです。
この背景には、デジタル技術の急速な発展に伴い、いつでもどこでも学びたい
内容を学べる教育体制の実現が可能になってきたことが挙げられます。
●世界最高水準のデジタル読解力
OECDのPISAデジタル読解力調査によれば、韓国の学生の17%以上がReading
literacyのレベル5(最高レベル)に到達しているという結果が報告されてい
ます。このレベル5は「複数のwebソースから情報を精査し、自発的かつ効率
的に自分が読んでいるものの信頼度や有用性を検証できる」能力に相当します。
本調査におけるDigital reading performanceのOECD平均スコアが499である
のに対し、韓国のスコアは568と、2位のニュージーランド、オーストラリアの
537や、4位である日本の519を引き離し世界でトップに位置しています(※)。
※ PISA 2009 Results: Students On Line: Digital Technologies and
Performance (Volume VI): http://ow.ly/fupfh
このように、デジタルリテラシーの高い、いわゆるデジタルネイティブの登場
によって、個人の素質に合わせた教育方法へのパラダイムシフトが求められて
います。
●スマート教育推進のために
このスマート教育を推進するにあたって政府が重要視しているものとして
「デジタル教科書の開発・導入」「オンライン授業の活性化・評価体制の構築」
「教員のスマート教育実践能力強化」「クラウド教育サービス基盤への助成」
の4つが主として挙げられます。これらの他に、コンテンツを公共目的で利用
する際の環境整備への助成や国民に対する啓発活動などを通し、産学官が一体
となってスマート教育の普及に努めています。
また、スマート教育の推進、e-ラーニングの活用促進にあたり、自国技術の国
際競争力確保のために規格を標準化・国際化する取り組みも政府機関主導で進
められています。
●フューチャースクール事業
韓国教育学術情報院では2005年から2009年まで、未来の教育に関する研究を50
以上進めてきました。2010年からは中長期プロジェクト<Future School 2030
プロジェクト>をスタートさせ、民間・行政・学校・研究期間の4者の協力体
制を整えながら、実験学校の設立を通したフューチャースクールのモデルを構
築してきました。加えて、コンピューターやインターネットを円滑に活用でき
るようにインフラの整備や、制度・行政基盤の整備などを行なっています。
●サイバー家庭学習の支援
初等・中等教育における私教育費の軽減や教育格差を解消するために、学生た
ちが家庭からインターネット上で学習用コンテンツを利用し、自律的な学習を
補うことのできるサイバー家庭学習サービスが2004年から運営されています。
このシステムを利用する学生は、2種類のコンテンツから必要に応じ選択し、
学習することができます。
このサイバー家庭学習の学生会員数は約417万人と、前年に比べても増加して
います。しかし問題は、会員数が増加している一方で、1日平均ログイン者数
は約23万人と、前年比で10万近く低下していることです。このためサービスを
運営している政府出先機関の市道教育庁では、コンテンツ提供方式を変更する
など利用の活性化を推進する予定です。
またサイバー家庭学習の全体的な満足度は小学生が高く、学年が上がるにつれ
満足度が低くなる傾向が見られるため、2010年には高校生向けコンテンツの開
発を中止し、2011年からは小・中学生対象のサービスに注力しています。
●大学情報化の支援
大学の情報化は基本的に各大学が独自に推進していますが、個々の大学で推進
しにくい事業は国が支援し、国際競争力の確保に努めています。政府は全国10
の地域にe-ラーニング支援センターを設置し、大学間・地域間の教育格差の
解消や大学間の相互協力、人材育成に取り組んでいます。この事業には国内
171の大学が参加し、コンテンツの共同企画・制作・活用を行なっています。
●放送通信高等学校の運営
政府は、適齢期に適切な学習を受けられなかった人々に中等教育の機会を提供
することを目的として、放送通信高等学校を運営しています。スマートフォン
やスマートパッド、IPTV(インターネット・プロトコルテレビ)で学ぶことの
できる、ユビキタスな学習環境を提供し、さらに2011年9月からは一部科目に
ついてスマートTV向け学習コンテンツサービスの試験運営を行なっています。
●健全なサイバー文化の育成
韓国では2006年頃からインターネット中毒者の増加が問題となり、2006年当時
のインターネット中毒者は青少年の約14%にあたる約100万人にものぼりまし
た。政府は中毒者への対応として情報文化月間の運営や予防教育といった倫理
事業の実施、民間との連携を図っています。そのような政策のおかげか、2011
年の青少年全体における中毒者は全体の7.7%にあたる67万人まで減少してい
ます。
●デジタル教科書の開発支援
スマート教育推進戦略の一環として、政府は2015年度からの本格的な運用を目
標にデジタル教科書の開発支援を行なっています。政府は開発・導入のために
研究学校を運営し、タブレット端末の他に、一般的なPCやネットブック向けの
デジタル教科書も開発しています。デジタル教科書によって、マルチメディア
資料や授業支援ツール、資料管理、サイバー家庭学習など外部サービスとの連
携といった情報化を推進する狙いがあります。
●国際交流の拡大
韓国の情報技術やe-ラーニングの優秀性は国際的にも評価されており、2011年
からは韓国型先端教育サービス海外進出支援事業がスタートしました。この事
業はODA事業の一環として、発展途上国における教育情報化のためのインフラ
整備の支援やICT専門家研修、コンサルタント業務を無償援助するものです。
このような支援を通して、国家間の情報格差を解消するだけではなく、国家ブ
ランド価値の向上や、韓国企業が世界で活動するための基盤を確立する狙いも
あります。
◎特集記事協力◎
吉川遼/東京大学 大学院 学際情報学府 修士1年
━━━━━━━━━━━
おしらせ・BEAT Seminar ────────────────────
━━━━━━━━━━━
2012年度第3回BEAT公開研究会
「スマートテレビが変える家庭学習」開催迫る!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
BEAT(東京大学情報学環ベネッセ先端教育技術学講座)では、
2012年度第3回 BEAT Seminar「スマートテレビが変える家庭学習」を
12月1日(土)に開催致します。
放送とインターネットを連携させた新たなサービスである「スマートテレビ
(Smart TV)」が、注目されてきています。これまでのテレビは、放送局から
視聴者への一方向的なコンテンツの提供が主流でしたが、スマートテレビの
登場により、ユーザー参加型の利用が加速されると思われます。家庭用の
テレビがインタラクティブになってインターネットにつながることで、家庭で
の学習はどのように変化していくのでしょうか。
今回のBEATセミナーでは、神部恭久氏((株)NHKエンタープライズ・事業本部
企画開発センター・事業開発/エグゼクティブ・プロデューサー)に、スマー
トテレビに対応したコンテンツのあり方についてお話いただきます。また、
堀内浩規氏(KDDI株式会社・メディア・CATV推進本部/メディアプロダクト
技術部長)には、スマートテレビのプラットフォームの概要や今後の展開に
ついてお話しいただき、スマートテレビが変える家庭学習環境について議論
を深めたいと思います。
日時:2012年12月1日(土)14:00~17:00
場所:東京大学 本郷キャンパス 情報学環・福武ホール(赤門横)
福武ラーニングシアター(B2F)
アクセスマップ>> http://www.beatiii.jp/seminar/seminar-map51.pdf
内容:
14:00-14:10
0. 趣旨説明
山内祐平(東京大学・大学院情報学環/准教授)
14:10-14:50
1.講演1「新しいメディア経験としての『スマートテレビ』(仮)」
神部恭久((株)NHKエンタープライズ・事業本部・企画開発センター・
事業開発/エグゼクティブ・プロデューサー)
14:50-15:30
2.講演2「スマートテレビのプラットフォームの概要(仮)」
堀内浩規(KDDI株式会社・メディア・CATV推進本部/メディアプロダクト
技術部長)
15:40-16:00
3.参加者によるグループディスカッション
16:00-17:00
4.パネルディスカッション「スマートテレビが変える家庭学習」
司会:
山内祐平
パネリスト:
中谷友紀((株)ベネッセコーポレーション・グローバル教育事業部・事業開発
セクション/課長)
神部恭久
堀内浩規
定員:180名(定員になり次第締切りますので、お早めにお申し込みください)
参加費:無料
懇親会:セミナー終了後1F UT Cafeにて 参加希望者(3,000円)
お申込みはこちら
↓↓↓↓↓↓↓↓
http://www.beatiii.jp/seminar/index.html
━━━━━━━━━━
お知らせ UTalk ──────────────────────
━━━━━━━━━━
「重装備化する住まい」のご案内
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
UTalkは、様々な領域で活躍している東京大学の研究者をゲストとして招き、
毎月開催するイベントです。カフェならではの雰囲気、空気感を大切にし、
気軽にお茶をする感覚のまま、ゲストとの会話をお楽しみいただける場と
なっています。
近代日本において、住宅の形とそれを見るまなざしはどう変わったのでしょうか。
建築学から語られることがほとんどだった日本の住宅論。ゲストの祐成保志さん
(人文社会系研究科准教授)は、それを社会学の視座から解き明かしています。
12月のUTalkでは、住まいを持つことが「人生の一大事」となった歴史をひも
ときます。
日時:12月8日(土)14:00-15:00
場所:UTCafe BERTHOLLET Rouge(東京大学 情報学環・福武ホール併設)
http://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/access.html
料金:500円(ドリンク付き/要予約)
定員:15名
申し込み方法:UTalkホームページ
https://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/utalk/
の参加申込フォームに必要事項をご記入の上、お申し込みください。
※申し込みの締め切りは11月30日(金)までとします。
なお、申し込み者多数の場合は抽選とさせていただく場合がございます。
ご了承ください。
━━━━━━━━━
編 集 後 記 ──────────────────────
━━━━━━━━━
Beating第102号は、お楽しみいただけたでしょうか。
今月のBeatingでは韓国のスマート教育推進戦略を取り上げました。
韓国では「創意的なグローバル人材の育成」のために、国策として教育の
スマート化が押し進められています。日本では、文部科学省が今年6月に「情
報活用能力調査に関する協力者会議」を立ち上げる一方で、総務省の教育情報
化事業である「フューチャースクール推進事業」が仕分けの対象となり、廃止
が決定されました。一見すると相矛盾するかのような日本政府の動向ですが、
日本の「フューチャースクール」の現場では、どのような取り組みが行われて
おり、どのような成果が得られているのでしょうか。次回のBeatingでは日本
のフューチャースクールの現状と課題について取り上げる予定です。
どうぞお楽しみに。
また、今週末は「スマートテレビが変える家庭学習」をテーマにBEATセミナ
ーを実施します。当日はスマートテレビのデモンストレーションも行なう予定
です。まだ、若干お席に余裕がございますので、ぜひ、ご参加ください。
ご意見・ご感想をお待ちしております。
「Beating」編集担当 高橋 薫 (たかはし かおる) kaorutkh@beatiii.jp
-------次回発行は12月25日の予定です。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
--------------------------------------------------------------------
BEATはTwitterを利用して教育やICTに関する最新情報や、BEATに関する
情報を発信しています。Beatingで紹介している情報以外にも多くの情報を
発信していますので、Twitterをご利用のかたはぜひBEAT公式アカウント
(@beatiii)をフォローしてみてください。
http://www.twitter.com/beatiii
---------------------------------------------------------------------
本メールマガジンのご登録先は、ベネッセ先端教育技術学講座です。ご登録
にあたって、お知らせいただいたお名前・メールアドレスなどの個人情報は、
ベネッセ先端教育技術学講座にて、「Beating」からのお知らせのためだけに
使用いたします。また、ご本人の同意なく、第三者に提供することはござい
ません。
「Beating」はお申し込みをいただいた方々に配信しています。無断転載は
ご遠慮いただいておりますので、転載を希望される場合はご連絡下さい。
□登録アドレスの変更、登録解除などは
http://www.beatiii.jp/beating/?rf=bt_m102b
□ご意見・ご感想は…
「Beating」編集担当 高橋 薫 kaorutkh@beatiii.jp
(東京大学大学院情報学環ベネッセ先端教育技術学講座 特任助教)
□「BEAT」公式Webサイト http://www.beatiii.jp/?rf=bt_m102
□発行:東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」
Copyright(c) 2012. Interfaculty Initiative in information Studies,
The University of Tokyo. All Rights Reserved.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━