10月9日 第3回公開研究会beat seminarが開催されました。台風22号が首都圏を直撃する中ではありましたが、予想を上回る多数の方々にご参加頂きました。
「ヨーロッパ・m-learningの現在」と題された、今回のbeat seminarでは、BEATメンバーが、視察したイギリス・フィンランドにおけるモバイルメディアの教育利用の動向についてご報告しました。
m-learningは、アメリカ、ヨーロッパ、韓国・台湾・日本の3つの流れがあります。BEATでは、今後2年間で、その全てを視察予定です。
ベネッセコーポレーションの真川和幸氏からは、「nesta futurelab(ネスタ・フューチャーラボ)」の代表的な実践「moovl(ムーブル)」、「savannah(サバンナ)」についてご報告しました。
タブレットPCを用いた自然学習の実践事例。「moovl」は、お絵かきソフトとシミュレーションの機能が合体したイメージ。物理法則をシミュレートできることが最大の特徴である。子どもは描いた絵に「重さ」、「密度」などのパラメーターを付与することができる。
PDAを使った実践事例。「savannah」は、子どもたちがPDAを持ち、ヘッドフォンをつけ屋外(=アフリカのサバンナをシミュレート)を歩き回り、ライオンなどの動物にになりきりながら、適切な戦略を使って生存競争を繰り広げるというもの。
nesta futurelabには、世界トップクラスの科学教材制作力を持つと言われるBBCのノウハウやコンテンツが十分に生かされています。
ベネッセコーポレーションの中野真依氏からは、「LSDA」のm-learningへの取り組みについてご報告しました。
http://www.lsda.org.uk/
LSDAでは、健康な社会作りのための学習支援を目標に、教育や訓練を受けていない若者(16〜24歳)を対象とした携帯電話・PDAをプラットフォームとした協調学習用のツールの開発・実践プロジェクト(m-learning http://www.m-learning.org/)を実施しました。
m-learningプロジェクトでは、こうした学習を行うmenterを養成する活動も展開し、モバイルメディアの提供にとどまらず、menterによる学習の持続可能性を保証するサポートが実施されたのが特徴的です。
このm-learningプロジェクトと、MOBIlearnプロジェクト(※後述)共同開催で、世界的なモバイルラーニング研究カンファレンス"MLEARN"を実施しており、来年のMLEARN2005にはBEATからも参加の予定です。
東京大学情報学環の宇治橋祐之氏より、主にBBCの「Bitesize(バイトサイズ)」についてご報告しました。
「Bitesize」・・・公的な個人学習・受験支援サービス
「Bitesize」はテレビ、テキスト、CD-ROM、Web、モバイルからなる複合的な教材群で、主に、学校教育の復習を目的としています。
イギリスでは中学卒業までにGCSEという基礎学力の保証を目的としたナショナル・テストが実施されるため、「学校教育のおさらい+確認テスト」というシンプルなコンテンツおよびオンラインティーチャーへの質問コーナーを持つ「Bitesize」は、個人学習用の教材として学校からも推奨されています。対象年齢(〜16歳)のうち95%が利用経験があるとされています。
モバイル用のアプリケーションは、携帯電話で動くJavaアプリで、選択式の問題に答え、正答率が出るというごくシンプルな機能のみが実装されており、「隙間の時間」利用を想定しています。
また、報告者の宇治橋氏からは、既存のTVやCD-ROM、テキスト、といったメディアのなかで、モバイルはどこに位置づけられ、どのようなスタイルの学習に向いているか、という問題提起が成されました。みなさんはどう思われますか?
ヘルシンキ大学Media Lab・・・テクノロジのメディアとしての意味、使い方を研究
http://www.mlab.uiah.fi/
※同日開催されていたMedia Lab 10周年記念セミナ
http://arki.uiah.fi/mlab-10-seminar
NOKIAを退社し、博士課程在学中の大学院生が、モバイルコンテンツ研究に従事。携帯電話で撮った画像を使った神経衰弱のゲームや、協調学習用ツールなどを開発しています。
東京大学情報学環の山内祐平氏からイギリスのBirmingham大学とフィンランドのNOKIAの取り組みをご紹介しました。
Birmingham大学・・・公共・高等教育向けm-learning基礎技術研究
http://www.eee.bham.ac.uk/sharplem/index.htm
Birmingham大学では、Mike Sharples博士率いる教育工学分野最大のm-learning技術研究グループを擁し、主に成人学習に焦点を当てたm-learningに関する取り組みを行っている。また、EU主導MOBIlearnプロジェクトに参加、次世代を睨んだモバイル学習の研究に取り組んでいる。
NOKIA・・・最大の携帯電話端末メーカー
http://www.nokia.com/
NOKIAでは主に企業におけるOJTなどのインフォーマルな学習を支援するためにm-learningの教育利用が図られている。m-learningコンテンツ提供はしないこと、また、インフラ、つまり学びの場作りのための手段として、m-learningを位置づけているのが特徴である。
また、金沢大学教育学部の小林祐紀氏からは、フィンランドと日本におけるモバイルメディアの教育利用についての認識の違いについてのご報告がありました。
フィンランドでは、学校の授業でそもそも携帯電話を使うといった発想がまだなく、小林氏の「携帯電話の教育活用プロジェクト」における研究・実践報告に対し、非常に強い興味を示されたそうです。
小林祐紀,中川一史,稲垣 忠(2004),携帯電話を小学校の教育活動に活用した教師の配慮に関する研究
(全日本教育工学研究協議会全国大会 東京大会提出予定)
※ BEAT Seminar第2回で、千葉県柏市立旭東小学校 佐和 伸明 氏にご講演いただいた、「ケータイの学校現場での活用」についてもご参照ください。
携帯電話の教育利用のパターンとして、ヨーロッパ視察で得られた、「じっくり考えるのではなく、スピーディーでレスポンスがすぐ返るもの」というアイデアを拡張し、それをドリルのような形ではなく、即興的な表現活動に使えないかという議論が行われました。
モバイルの教育利用の際、携帯とPDAでは必要とされるコンテンツが違うのではないかという議論が交わされました。個人が中央からの情報をうけて自分で課題をクリアしていく携帯型と調査した情報を共有しあうことで学習を進めていくPDA型、それぞれの特性にあったコンテンツ開発の必要性が認識されました。
総務省の動きを受け、産官学連携してモバイルラーニングを推進するときの留意点として以下の点について、議論しました。まず、ターゲットに本当に使ってもらえるコンテンツデザイン、そして、メディア特性を活かしたマーケティング的視点、産官学それぞれにバランス良くメリットがある仕組み作りが特に肝心であることが認識されました。
また、当日は飛び入り参加で、ノルウエーからのお客様Aske Damさんより、BBCの著作権やクリエイティブ・コモンズに対する取り組みを、TV Anytimeというプロジェクトとの関わりでご報告頂きました。
TV Anytimeのウェブサイト
http://www.tv-anytime.org/
視察報告の後に行われたセッションの議論は、台風が迫り来る中にも関わらず、非常に盛り上がり、時間を延長するほどでした。 来月のbeat seminarのテーマは「モバイルコンテンツとインストラクショナル・デザイン」です。 モバイルデバイスにコンテンツを載せていく際に、学習コンテンツは、どのように設計したらいいのか。その設計原理として注目を集める、インストラクショナル・デザインについて、皆様と更に白熱した議論ができればと考えております。 インストラクショナル・デザインとは何か?については、今月末発行のbeating第5号で特集を組む予定です。是非是非そちらも合わせてご覧下さい。 次回の開催は11月7日(日)が予定されています。皆様の参加をお待ちしております。