今注目されているWeb2.0テクノロジが拡げる、新しいWebとユーザの関係性とその学習利用の可能性について、インターネットの普及に伴う様々なWeb技術・サービスの進化、そしてユーザの変化を最先端で追っている方々をお招きし、ご講演いただきました。また、その新しいWeb環境が学習環境の未来に対しどのようなインパクトを持ち得るかについて、フロアからの質問に基づいたディスカッションが行われました。
情報は、流していくもの、流れていくものでないと価値がない。そのためにネットワークというものができた。しかしながら、ネットワークがあるだけでは、うまく情報を流せないし、流れない。欲しい情報が手に入らないし、伝えたい相手に情報が伝わらない。
では、どうやって流すか、ということを考えた場合、まず行われたのが「標準化」である。情報を共通の形式に乗っ取って公開することによって、皆が共通の方法でアクセスできるのではないかと考えた。標準化は大きく分けて、「情報の形式」と「アクセスの方法」に対して行われた。
情報の形式の標準化はXMLという形式で行われた。これはOSやソフトウェアに関係なく、色々な機器で同じように情報を表現するための形式である。アクセスの方法については、情報にアクセスするためにはどういったリクエストを出して、それに対してどういった答えを返すのかということを標準化したのがAPIと呼ばれるもので標準化された。これによってマシン・リーダブル、コンピュータが理解できる形の情報がWebの中にできてきた。これまでのWebサイトは人間の手によって構成されたものが中心で、機械にとっては非常に解釈しにくいものであった。それが、標準化によって機械が情報を自動的に収集・加工ができるようになった。
Web2.0という言葉を作って一般に普及させたのは、アメリカのヴィジョナリスト、ティム・オライリーである。ティム・オライリーは2005年に「What is Web2.0」として、Web2.0の定義を7個挙げている。
これまではパソコンは「デスクトップ」の上でアプリケーションやファイルが展開されていたが、これからは「Webtop」であると述べている。Webの上で様々な作業を行うという概念を表した定義である。「Webtop」という言葉は、実はWeb1.0の時代から使われてきた言葉であるが、Web 2.0は1.0を土台に、進化を重ねて連続的にできてきたものであるあらわれである。
また、これまでのソフトウェアは、特定の開発期間を経て、パッケージングされCD-ROMなどで提供されていた。しかし、このやり方ではデリバリーコストがかかり、細かなアップデートが難しい。Web2.0においては、ソフトウェアはソフトウェアベンダーのサーバーの中に入っていて、ユーザにはネットワークを通じて提供されるようになり、サービスのアップデートが容易になる。「Google」はパッケージとしてソフトウェアを販売せずに、Web経由でソフトウェアを提供している、代表的なWeb2.0企業である。
Web 2.0の特徴に、「集合知」というものが挙げられる。これまでの情報の信頼性は、百科事典に代表されるように、権威が重要であった。Web2.0では、皆で少しずつ知識と労力を出し合って、知識をブラッシュアップしていくという考え方が主流である。
機械は、メタデータと呼ばれる情報の検索に必要なキーワードの集合体を、情報に付加するが、機械がやるとあまり精度が良くない。そこで、人間が情報に対して、手動でキーワード(タグ)等を設定するという考えが生まれた。それによって、情報の検索の精度を上げようという考えである。この考えは「Folksonomy」と呼ばれ、これは「Folks(民衆)」と「Taxonomy(分類学)」を組み合わせた言葉である。代表的なものとして、「Flickr」(http://www.flickr.com/)を紹介する。「Flickr」はWeb上で写真を共有するサービスである。たとえば、東京大学に関する写真が欲しいときに、「google」のイメージ検索を用いると、Webページ上の写真の付近で「東京大学」という言葉が用いられているものを検索してくるだけで、精度があまり良くない。しかし、「Flickr」では画像のユーザがタグを画像に付加するために、検索精度が高くなる。他にも日本では「はてなブックマーク」(http://b.hatena.ne.jp/)というサービスが展開されているが、これは、WebのURLに参加者がタグをつけることで情報の検索精度を上げようというものである。
以上の考えの前提になっているのは「Radical Trust」というものである。これまでは「正しい情報」は権威が発するものであったが、「Radical Trust」は、「多くの人がそう言っているから正しい・それほど間違っていない」という概念である。たとえば、「Wikipedia」(http://ja.wikipedia.org/)という、百科事典のサービスがあるが、これは項目を権威がある人が書くのではなく、誰でも内容を追加・修正できるようになっている。「東京大学」と検索すれば、東京大学に関心がある人、好きな人、嫌いな人など様々な人によって構成された東京大学の内容が表示される。多くの人の手によって構成されるため、内容の信頼性に不安を感じるかもしれないが、実際には間違った記述があれば、即座に修正されるといったこともあり、「そこそこ正しいのではないか」というのがWeb2.0の考え方である。
Webを構成するデータを誰が構成して、蓄積して、公開するのか。また、そのデータは他に真似の出来ないユニークで価値があるものかどうか、ということは重要である。これに対して、私は成長モデルが必要であると考えている。データをたくさん持っていることは価値があることではあるが、持つだけなら誰でもできる。
オンライン書店の「Amazon(http://www.amazon.co.jp/)」では、売られている本に対して、一般の読者が書き込んだ書評、「ブック・レビュー」が付加されている。この書評はユーザによって書かれたものではあるが、「Amazon」しか持っていない貴重な情報である。また、「なか見!検索」という機能があるが、これは本の内容の一部のスキャン画像を見ることができる機能である。本が売れなくなるのでは、という危惧もあったが、実際にはこれによって売り上げが9%伸びたと発表されている。これらは、ユニークな情報を提供することによる効果である。ただし、このような自己成長モデルではプライバシーや著作権などに注意を払う必要がある。
サービスを提供する仕組みを作ったとしても、単体では価値がなく、連携させることによってWeb2.0的な価値が生まれる。そのために、サービスをモジュール化するという考え方が生まれる。サービスを小さなモジュールにまとめ、それらの連携を可能にすることによって新たな価値を生み出そうとすることを、「Mash Up」とか「Remix」と呼んでいる。
たとえば、新しいWebサービスを作ろうとしたときに、「あれも必要、これも必要」といった具合に、様々な情報が必要になってくるが、それらを既に提供しているWebから情報を得て、自分のWebサイトで再構築することによって新たなサービスを提供することが可能である。
私が最近始めたWebサイトで「直島MAP(http://www.artmap.jp/naoshima/)」というものがある。直島はベネッセが芸術に関する事業を展開している島であるが、ここに実際に行った人が、自分のサイトでBLOGを書く可能性があるが、直島の情報を検索している人にとってそのBLOGにたどり着くのは大変である。そこで、「直島マップ」では、地図上にBLOGからのトラックバックを打つことにより、地図上からその場所に関するBLOGを書いた人のサイトへジャンプできるようになっている。また、逆に、BLOGから「直島マップ」の地図を見ることもできる。それからこれ(http://online.iii.u-tokyo.ac.jp/ ̄shin/geocode_flickr/)は私が1時間程度で作ったWebであるが、上に表示された「Google Maps」の地図をクリックすると、下にその場所にちなんだ画像が「Flickr」から検索されて表示される。このように、モジュール化された「Google Maps」と「Flickr」などを組み合わせることによって、新たなサービスを容易に始めることができる。
先ほど述べたように、Web2.0では、ソフトウェアをサーバーから提供することによってデリバリーコストを下げ、常にアップデートできるようになった。「Flickr」の例では、30分おきにサービスがアップデートされたこともあり、ソフトウェアに完成形がない、常に完成形一歩手前のベータ版であるのがWeb2.0の特徴である。常にアップデートするには、ユーザーとのコミュニケーションを密に取る必要があり、ユーザーがどのようなサービスを求めているのかをヒアリングしながらアップデートしていく。
Webは日本の携帯電話という特殊な例があるにせよ、PCの上だけで展開されてきた。過去にはPC以外でWebを利用とする試みはいくつがあったが多くは失敗してきた。しかし、Web2.0はPC以外にも展開している。特徴的な例として「iTunes(http://www.apple.com/jp/itunes/index.html)」が挙げられる。「iTunes」はWebで音楽を買い、PCで音楽を再生し、「iPod」で音楽を持ち出すといったところまで、シームレスに実現した例である。
「これからはWebtopになる」といって、Web上にワープロソフトを展開しても、これまでのWebのパラダイムでは表現に制限があり大変使い勝手の悪いものになるだろう。それに対して「Ajax」という技術で、Web上で非常に動的なプログラムを展開できるようになり、デスクトップと近い使い心地が実現できるようになった。
例えば、「Google Calendar(http:// www.google.com/calendar)」というものがあるが、ここではカレンダーが表示され、予定を入れたい時間帯をドラッグしてクリックするだけで予定表を作ることができる。また、友人にその予定を伝えることも即座に可能である。今までのPIMソフトウェアと同様の使い勝手をWeb上で実現しているのは「Ajax」のおかげである。これまでのWebで同じようなことをしようとすると、色々なページに何度も飛ぶ必要があったり、大変手間がかかる作業になるだろう。
Blogというのはいわゆる「CGM:Consumer Generated Media」と呼ばれるものである。Webが登場したときには「これで誰でも情報の発信者になれる」ともてはやされたが、実際にはそうはならなかった。ホームページをつくるにもタグを覚えなくてはならなかったり、作ったとしても誰も見てくれなかったり、せいぜい仲間内で掲示板に書き込む程度であった。Blogというシステムは、Webサイトを「作る」ところと「広報する」ところを自動的に可能にした。好きなことを書き込めば自分のホームページが自動的に構成されていく仕組みであるが、これによってある程度一般ユーザが、スポンサーをつけたりせずに情報発信ができる仕組みができたと考えられる。
Blogには「トラックバック」というものがある。これはAさんがあることに言及したとして、Bさんは「Aさんはそう思っているけどそうじゃない」といった記事を書いた場合、BさんのBlogを読んだ人はAさんの存在に気付くことができるが、AさんのBlogしか読んでいない人にはBさんの記事の存在を知る術が無かった。そこでトラックバックというものを用いて、BさんがAさんの記事に言及する際に、Aさんにトラックバックを送ると、Aさんの記事にもBさんの記事への逆リンクが張られ、双方のBlogを閲覧できるようになる。これによって他者の意見の存在に目が行くようになり、より議論が深まると考えられる。
また、Blogには「RSS」という機能がある。これはサイト内容の要約を配信するためのものである。個人なら新しい記事の書き込み、会社ならニュースを配信している。今まではサイトの更新をいちいち見に行かなくてはならなかったが、更新情報の要約であるRSSをチェックすることによって、よりタイムラグが少ない状態で新しい情報に到達することが可能になった。
これまで「二対八の法則」などと呼ばれてきたものがあるが、これは上位2割の人が8割の収入を稼いでいることや、働きバチの2割が全体の8割の仕事をしていることなど、世の中の現象を2:8で考えると説明がうまくいくことを指した言葉である。果たして本当かということを調べて見ると、アメリカの某大手の書店で売られている本の種類は13万タイトルであるが、これらのタイトルの米Amazonでの売り上げを見ると、実は43%に過ぎなかった。これまでのビジネスでは、上位2割を扱っていれば8割を稼げるという考え方であったが、「Amazon」では下位8割が今まで考えられていた以上の割合を占めていることがわかり、これまでの書店は大きなビジネスチャンスを逃していたことが明らかとなった。実際の店舗では在庫の関係上、大量の本を陳列することができないが、その制約がない「Amazon」では商品点数を増やすことは容易である。いわゆる「ニッチ」を対象とした情報発信・ビジネスが行えるのがWeb2.0の特徴であるといえる。
1年ほど前にトラックバックのリンクがどのように広がっていくのかという調査をした。その結果、実際にリンクが広がっていく様子を観察することができた。これは、情報を横につなぐWeb 2.0の効果を証明した例である。
「株式会社ネットレイティングス」は、世界15カ国でネットの視聴率を調べているニールセン・グループの一員である。日本では2000年から調査を開始して、今は6年分のデータが蓄積されている。テレビの視聴率と同様に、ネットの視聴率もロングテールの部分は切り捨てている。1ヶ月調査すると上がってくるのが約20万サイトくらいあるが、実際の分析に堪えるのは2,000サイト程度である。そういう意味ではWeb2.0的なサービスではないのだが、Web2.0に関する問い合わせが非常に増えている。たしかに視聴率を見ると、Web2.0の膨らみが見えてきている。
サンプル世帯からは全アクセスを記録しているので、個別のサイトの動向だけでなく、マクロな動向も見ることができる。家庭のマクロな動向について見てみると、2000年の4月はインターネットの利用者数が1,000万人で、1人あたり月平均6時間利用していた。つまり、全体で月6,000万時間見ていたことになる。2006年4月のデータでは、利用者数が4,000万人で、月平均18時間見ているので、全体で大体7億時間見ていることになる。つまり6年間で総視聴時間は10倍以上になっていて、例えば、「楽天」のようなサイトに滞在する人は、単純計算で10倍に膨れ上がっているということができる。学びという観点から見ても、Webから得る学びは10倍になっているともいえる。
2000年4月は思い起こして見ると、「ビット・バレー」の最盛期であった。インターネットがこれから凄いことになると一般的に言われ始めた時期である。また、この時代はダイアルアップ接続が主流で、常時接続が一般化したのが2002年から2003年である。常時接続というのが、視聴時間の向上に貢献している。
最近の調査によると、「Amazon」が「楽天」に近づいている、「Wikipedia」と「YouTube」が台頭してきていて、「Google」への検索リクエストが増えているという結果が出ている。いずれもWeb 2.0的なサービスであることに気付かされる。2月のデータによると、「Wikipedia」が前年同月比で3倍以上の700万人が利用している、そして、5月のデータを見て見ると1,000万人超えており、物凄い勢いでユーザー数が伸びている。4/29に当社が発表したニュースリリースでは「YouTube」の利用者数が200万人いることを報告している。「YouTube」というサービスは ビデオを自由に共有できるサービスで、それまでは大変マニアックなサイトであった。英語のみのサービスであるが、日本のユーザが英語圏のユーザ数を超えている。このニュースリリースによって「YouTube」はさらに知れ渡るようになり、5月の段階での利用者数は倍増している。「Wikipedia」と「YouTube」は2.0を語る上で、非常にキーになるサービスであると考えている。
教育ということを考えた場合、たとえば、わからない言葉があったときに権威のある百科事典である「ブリタニカ」を参照させるのか、またはみんなで寄ってたかって作り上げた「Wikipedia」を参照させた方が良いのか、外国の文化を学ばせる際に、NHKの教育番組のライブラリを見せた方が良いのか、あるいは「YouTube」で外国の名前を検索して見せた方が良いのか、この選択の違いによって教育がWeb 2.0化するかしないかが分かれると考えられる。例えば、「YouTube」で「Sushi」というキーワードで検索すると、大変面白い映像が見ることができ、外国人から見た日本文化を垣間見ることができる。
Webビジネスでお金を儲けようと思った場合、「物を売る」「広告を載せる」「手数料を取る」の3つしか方法がなく、これらを単独、または組み合わせることによって利益を得る。「Yahoo!」ならバナー広告を載せ、「Yahoo!ショッピング」で物販をし、「Yahoo!オークション」で手数料を取るといった形で利益をあげている。「mixi」は2.0的に見えるが、ビジネスの面から言うと、20代の若者が集まっているサイトにバナー広告を出し、「mixiプレミアム」で手数料を取るという、典型的な1.0サイトである。ただ、膨大なユーザーコンテンツを抱えていることに関してはWeb2.0的であるともいえる。
今日のテーマである「みんながちょっとずつ頭が良くなる世界」ということを聞いて、思い出した法則がある。マーケティングの世界では「AIDMA(アイドマ)」と呼ばれているもので、30年以上前から憲法のように扱われてきたものである。
「AIDMAの法則」とは、広告によって人々は、
という、消費者の行動の頭文字をとったものである。このモデルが30年も残っていたのは、これまでメディアの中心はマスメディアであり、広告の投下量と購買率に相関が出るので、広告代理店に都合の良いモデルであったからである。しかし、これがネット時代になって変わったのではないかということがWebマーケティングの世界ではいわれている。様々なモデルがあるが、「AISAS」というものを紹介する。
「AISAS」は、
Attention(注意)とInterest(関心)からAction(購買行動)までは、モデルにしなくても、もうすでに一般化してきている。特にスペックで選べる家電製品などはSearchをする頻度が高いといえるだろう。最後に来るのがShare(共有)であるが、実際に買った製品を「mixi」の日記やBlog、「価格.com」や「アットコスメ」の掲示板に感想を書き込む。いわゆるCGM(Consumer Generated Media)である。型番とともに書き込まれるため、非常に検索がされやすくなる。特にSearchとShareが購買行動に及ぼす影響が大きく、多くの企業がどうにかしなくてはと考えている部分である。Searchに関しては広告自体に「検索してくれ」と書いてしまうもの、Shareに関しては企業Blogを設けるといった動きがある。
Searchはよりニッチな情報へのリーチを可能にし、Shareによって今まで得られなかったような商品の情報を得ることができ、より消費行動がユーザ側に寄る形となっている。
「AIDMA」は一方通行で言い換えれば1.0的、「AISAS」はユーザが消費行動に影響を及ぼすシステムになっていて、より2.0的であると言える。これらはマーケティングの世界の話ではあるが、教育においても、これまでは決まったシステムの中で一方通行に行われてきたが、これからは学習者同士が連携した2.0的な学びが台頭してくるのではないかと考えられる。
CGMは別に新しいものではなく、1996年くらいから掲示板、チャット、個人サイト、個人メルマガとして存在していた。当時でさえ、「これからは個人が情報を発信する時代だ」とさけばれていた。日本では「2ちゃんねる」など、参加型のWebや個人サイトの視聴率が特異的に高い。海外に目を向けると、「2ちゃんねる」といった巨大掲示板はそもそも存在しないし、また個人サイトも非常に少ない。視聴率上位に来るのは「MSN」といったポータルサイトである。日本人はもともと情報の発信が好きなのかもしれない。
このように、1996年からCGMというものがあったのだが、今とは何が違うのかというと、CGMが整理されてきているということが大きな違いである。家電製品に対する感想は「価格.com」で型番別にまとめられているし、Q&Aコミュニティでは様々なノウハウが集約されている。また、ソーシャルネットワークではコミュニティ別に感想がまとめられているし、ブログはトラックバックによって情報が関連付けられている。「ベネッセ・ウィメンズパーク」のようなコミュニティサイトを当たり前のように使いこなしているし、最近では「Flickr」、「Wikipedia」、「YouTube」といった共有型のプラットフォームが台頭してきている。これらのサイトに共通しているのは、あることに関心を持った人が、その情報を簡単に探せるといったことである。そして、それぞれのサイトが持つトラフィックが非常に大きいし、知名度も高く、どこにいけばどんな情報を得られるか、または発信できるかが理解されている。
現状の日本のWeb2.0は購買行動を中心に発展しているが、これからの課題が教育などへの利用であると考えられる。ビジネスであれば非常にシンプルで、物を買うことに関してはWeb2.0によってもう既に「みんながちょっとずつ頭が良くなっている」といえる。ユーザレビューや価格の比較など、昔では考えられないようなことが可能になっている。電通では「消費者は既に万能感を持っている」という言い方をしている。消費者は店頭に行く前に、Web2.0的サービスによって情報武装をするため、店側にとっては悩みの種である。そういった意味では賢い消費者になっているともいえる。ただ、それが幸せかというと、一概にはそうではなくて、例えばデートのためにレストラン情報を検索する、検索すればいくらでも情報は得られ、良い店に当たる確率も高くなるが、その裏返しとして、失敗したときのダメージが大きい。
アフィリエイトとは、商品の購入ページへのリンクを、商品に対するコメントともに個人のサイトやBlogなど、CGMに張ることにより、そのリンクをたどった人が商品を購入した場合、個人が店舗からインセンティブをもらう仕組みである。楽天ではアフィリエイト経由の売り上げが3割にも上っていることからもわかる通り、CGMが購買行動に与えている影響は決して小さくはない。
参考までに、ネットレイティングスが集めているデータを少し紹介する。
3年前と比べて現在では、検索リクエスト数は「Yahoo!」は2倍、「Google」は3倍となっている。ここのところ「Google」が立て続けに新しいサービスを発表しているので、その動向が注目され、ネットに詳しい人たちは主に「Google」を使うので、主流は「Google」であると思われがちであるが、日本においては未だに「Yahoo!」がトップである。
「Yahoo!ディレクトリ」に利用数が去年の秋に落ちている。これはビジネスや今後のことを考慮し、検索方式のデフォルトをディレクトリ方式からロボット方式に変更したためである。ただそれでも「Yahoo!ディレクトリ」の利用者は未だに1,200万人いる。外国ではディレクトリ方式のものはほとんど使われなくなっているが、日本では未だにディレクトリ方式の利用が多い。ディレクトリ方式の利用者は、たとえば、「トヨタ自動車のトップページに行きたい」という動機で検索しているため、ロボット方式のようにたくさんの検索結果が出てくると困惑してしまうようである。本から直接的に情報を得たいというよりは、本自体をまずは図書館で探したいといった欲求を持った人が日本人には多いのではないかと考えられる。それは検索キーワードからもわかる。欧米では商品名や流行語が多いが、日本ではメーカー名が多い。
CGMのボリュームであるが、Blogは「livedoorブログ」がトップである。「mixi」は5月の家庭のからの月間アクセス数が320万くらいである。会員数が500万程度で、7割がログイン3日以内ということ、職場からのアクセスを足すと精度が高いといえる。続くのは「Gree」であるが、下降気味である。3位は「frepa」である。「教えてgoo」、「Yahoo!知恵袋」、「OKWave」といったQ&Aサイトのアクセスも伸びている。「goo」は「Google」が現れる前は、日本では検索エンジンの定番であったが、今では検索よりも「教えてgoo」のアクセスの方が多い。「2ちゃんねる」や「Wikipedia」は1,000万アクセスを超えており注目の的である。口コミサイトでは「価格.com」が500万程度である。
滞在時間で見て見ると、「mixi」が大幅に伸びており、日本では第三位の滞在時間を誇っている。1位が「Yahoo!」、2位が「楽天」であるが、「Yahoo!」のユーザー数が4,000万であるのに対して、「mixi」はアクティブで300万人程度と考えると、滞在時間がとても長い。そのため、広告の出稿量は「Yahoo!」についで2位となっている。「みんなの就職活動日記」は就職活動がピークの2月、3月の滞在時間が多い。このサイトによって就職活動のやり方自体が変わってきて、まさにWeb 2.0的なサイトであるといえるが、それが果たして良いことなのかということは分けて考える必要がある。
オライリーのWeb2.0の定義の紹介があったので、私はもっと実践的な角度からWeb2.0を考えていきたいと思う。まず私が考えるWeb2.0の特徴は、
ということである。そして、定義が混沌とした状況の中で、私個人で一番納得できたWeb2.0の定義は、「Zopeジャンキー日記(http://mojix.org/)」さんで述べられていた、
というものである。
Web2.0にあてはめると、人が集まり、定義が難しい、また自らイケてる(2.0と名乗る)と言った場合は疑わしいという具合である。
冗談のように聞こえるが、よくよく考えるとWeb2.0「イケてる」の類似性から学べることがあるのではないか、と気がつく。
Web2.0は技術やビジネスモデルの話ではなくて、格付けの概念だと考える。どういうコミュニケーションをしたら周りから「高い格付け」、つまり「Web2.0の格付け」をもらえるのか。もちろん参加型とか様々な要素があるが、周りから「2.0っぽい」と言われることが重要だと考える。
Web2.0っぽいサイトはたくさんあるが、Blog界隈では意見が分かれることが多い。Blog界隈でWeb2.0っぽいと話題に上るサイトの特徴を個人的にまとめて見ると以下のようなものがある。
Blog界隈で評価されているWebの要素を見ると、4つの要素「VDMY」があげられる。
このようなストーリーを持っていることが、高い格付けを得るための条件であると考えている。「これが完成形だ!」といって物を売るのがこれまでのやり方であるが、Web2.0では、あえて「目指すところはもっと先なのだが、今のところはこれが我々が考えるベスト」と製品やサービスを位置付けて公開し、これからについて顧客やユーザーとコミュニケートできるかが鍵である。Blogをやっている人は基本的にリテラシーが高く、売り込みや広告が嫌いである。彼らが一番好きなのは悩み相談であり、そのようなコミュニケーションを意図的に作り上げることが高い格付けをもらうために重要なのではないだろうか。私の仮説では、「VDMY」を使えばどのような企業でも高い格付けが得られるのではないかと考えている。
Web2.0企業とは、自社のVisionを共有し、今の製品を「我々が考える現時点での最適解(=しかし目指すところはもっと先)」と位置づけ、そのあとをオープンに議論することにより、ユーザーが自発的にアイディアを創出し、結果として成長を実感していくことを可能にする企業なのではないかと考える。「Google」がWeb2.0的企業としてよく言われるのは、彼らが様々なコンテンツを展開している以前に、「より良い検索結果を提供する」というVisionを提示し、様々なAPIなどを通じてユーザーや開発者とオープンなコミュニケーション手段を提供しているところにあると考えられる。
Ajaxなどの技術使用から評価を受けるのではなくて、適切なコミュニケーション手法で、「イケてる」Web2.0企業として高い格付けを獲得することが重要であると考える。
続いて、フロアからの質問に基づき、パネルディスカッションが行われました。
萩原:昭和30年代から40年代に電化というものが起こったが、それ以前と以後では女性の労働負担が減ったのは間違いない。ネットにおいても、ネット以前と以後では、便利になったと感じられているのは間違いないと思われる。ただ、家電は持っていればだれでもそれなりの利便性を享受できるが、PCは持っていてもネットに親和性があるか無いかで大きな差が生まれる。今は飛行機のチケットがネットで買えて便利だと思われるが、ネットに疎い人にとっては、昔は並べば気合いで買えたものが、今は競争にすら参加できなくなってしまった。家電では持っている・持っていないだけで容易にディバイドを確認することが出来たが、Webの世界では分かりにくくなっているのは大きな問題であると考える。Web2.0に期待するものとしては、携帯電話についてはPCほどのディバイドはないと考えられるので、携帯電話でWeb2.0的なサービスの展開に期待をしている。
久松:コンピュータがもたらすディバイドについてはよく語られるが、実はコンピュータによって乗り越えられるディバイドもある。私はオンライン株取引をすることがあるが、これがオンラインではなく、証券会社に赴かなくてはならないものであったら、株などに興味がなかったと思われる。逆にこのようなディバイドを解消するケースも意外と多いのではないだろうか。
久松:自分が書いたことに対して、タグやコメントがつくことによって自分の中にある暗黙知が明確になってくるという体験を何度もしている。それはBlogであったり、コミュニティサイトであったりするのだが、自分が書き込んだことの範囲を超えて、広範に議論が広がることがあることもあり、それがポジティブなWeb2.0の効果ではないだろうか。
萩原:Q&Aコミュニティになぜ答えるかということについて、人は誰かの役に立つことによってモチベートされるので、答える人がいるのではないだろうか。生産活動以外にもボランタリーな人の活動もたくさん流通している。それ以上に、人々が参加型のWeb2.0に参加するのは、単純に楽しいから、ということが大きいと思われる。何を食べたとか、何を見たとか、そういった話題がほとんどであって、エンターテイメント性の強いのがWeb2.0である。
田口:Web2.0とは万能薬ではなく、これは環境で、自分でコストをかけずにシステムを作ったり、意見を主張する場が揃っている環境であるといえる。「僕はこうしてみますが、あなたはどうしますか?」というアプローチが良い。何かスケーラブルなことをやってみたいと思ったときに、ツールはあるしオーディエンスもいるし、あとはアイディアがあれば、それの具現化が可能な世界であると思う。
萩原:大学の先生と仕事をしていて思うのは、何をもって評価されるのかということである。弊社のデータを使って研究していただいている先生はたくさんいらっしゃるのですが、その結果は学会や企業が相手で、まず一般の人の目に触れない。学会でオーソライズされるのが目的だとしたら、「みんなそう思っているから間違っていないよね」といった発想のWeb2.0的な世界にはまず出てこないと考えられる。例えば、教授になる条件として、学会にオーソライズされることではなく、論文がどれだけ多くの人の目に触れたかということになったら、もっと面白いのではないかと考えている。その辺が学びとか知の分野ではネックかなと感じている。
田口:最後に一言だけ述べますと、最近の19,20,21歳くらいの学生は、とても面白いアイディアを持っていて、しかも時間もたくさんあって、週末にチョコチョコっと面白いプログラムを書いたりする。そのパワーはとてつもないものであり、その年齢層の人たちとなるべく触れあうようにしています。
久松:情報を出すことによってこそ情報が集まってくるというのは、机上の空論のようであったがWeb 2.0の世界では実際に起きていて田口さんの「アカデメディア」には数時間で100人の人が集まるなど、そういう世界ができつつある。今のWeb 2.0はまだその途上でありもう少し長い目で見守って欲しいと考えています。
教育の世界でも、明らかに今まで教師が目を向けてこなかった場で、おもしろい活動がたくさん出てきています。おもしろいことの背後には必ず「学習」があるというのが教育学者の信念です。しかし、このことは誰も制御していないところで起こることが多く、自然発生的に「イケてる人」は「イケてる人」同士とつながってより「イケてる人」になるのですが、そうじゃない人にはできない。この現象は興味深いのですが、おそらく教育者は許せないのです。常に教育者の信念は「イケてない人をイケてる人にすること」です。Web 2.0を活用できる人は「イケてない人はイケてなくていいじゃん」と思っているわけです。つまり、とても深い溝があって「あっ、これは越えられないんだ」というのが今日わかったことが面白かったです。
だからこそ、教育は今までClosed Communityをすごく大事にしてきたんです。学級は40人、ベネッセは会員といった具合に、何らかの形で40人とか50人くらいのClosed Communityの中で、教育者がそこに関与して人為的に「イケてない人がイケてるようにする」ということを一生懸命やってきました。ですから、教育業界のなかではCommunity Managementの知が蓄積されています。しかし、萩原さんが言われるように、しがらみがあって出せないのです。大部分の人がイケてないまま終わるような結果を示した論文は出せない。そういった意味で教育は、非常にWeb 2.0的なものに乗りにくいカルチャーであると思います。
ただそれでも僕がこのWeb 2.0的なものにすごく可能性があると思っているのは、知識流通のシステムは変わらなければいけないということです。つまり一方的に権威がある者が送り出して、大多数の人は奴隷のように従うというモデルは、これからの世の中では変わるでしょう。参加してどんどん新しいものを作っていくための「ツール」もあれば、「流通モデル」もあれば、「本質論」も「コミュニケーションモデル」もあるんだ、ということです。これはまさしく、教育の世界で100年間ずっと言われてきたことそのものだと思います。
つまり、「一方的に教える・一方的に学ぶ人がいて、その間でテキストや知識が流通するだけ」ではなくて、「学習者が参加して、新しい学習を作る」というのは、僕自身も物心ついたときから教えられてきたことで、研究者は皆そう言っています。でも、それが実際に実現されたためしはほとんどないのです。
そういう意味で我々は革命的な時期にいるのかもしれない。いわゆる教育サービスと呼ばれていない部分に、非常に教育的なサービスが実現される可能性もあると思っていて、そのようなことはもう起き始めていると思います。それがいいか悪いかという話は別として、ニンテンドーDSがあれだけ普及して、脳を鍛えるようなプラットフォームがパッと広まってしまったわけです。このパワーに対して教育者は「あれは教育じゃないんだから」って言っていられなくなるでしょう。Web2.0的な話も、このままほうっておくと、ぜんぜん教育という名前がついていないけれども、一部の人の中に教育的な成果をあげるようなシステムが出来てしまうと、我々は何かしなければならなくなる。我々がやれることはたくさんあります。これからBEATという器を使って、いろいろ面白いことをしていきたいと考えています。
今回は、Web2.0 ということで、その新たなコンセプトが教育に貢献する可能性を安易に期待していましたが、そもそもトラディショナルな教育とWeb2.0の間には大きな溝があるということに参加した多くの人が気付いたのではないかと思います。しかし、Web2.0の世界には、その溝を跳び越えるような気づきや学びがあることを実感した人も多いことでしょう。教育の世界を大きく変える種は確かにある。それをどのように萌芽させ、育てていくかが課題になっていると感じました。