インターネットが学校で活用されるようになった1995年頃から、交流学習には大きな注目と期待が寄せられ、実践研究が進められてきました。
交流学習には、教育内容としても教育方法としても、大きな可能性と実績があります。しかし、教師にとっては、クラスの子どもたち以外の「他者」が存在することを前提に授業を設計し、運用することは、容易なことではありません。学習効果があるとわかっていても、実施が難しいのです。
そこで今回は、国内外の交流学習を成功させている方々をお招きし、ベスト・プラクティスから以下の諸点を学びたいと考えています。
「ジャパン21」はイギリスのNPOである。イギリス国内の教育や、イギリス国内での日本に関する教育を行っている。国際交流はその一環である。「ジャパン21」の話に入る前に、学校のカリキュラムにおける異文化理解についてお話しする。
イギリスでは、英国教育技能省(日本の文部科学省に当たる)の政策で、学校には外国との交流を行う義務を課している。一般的に、各教科の中で海外の事例を積極的に取り入れている。小学校ではトピック型が中心で、例えば社会科では、1学期間日本など特定の国のことだけを学習することができる。イギリスでは日本のように決まった教科書がないので、イギリスの先生は授業を行う上で自由度が高く、先生の工夫によって授業形態が変わってくる。例えば、社会科で特定の国を取り上げながら他の教科と結びつけて、技術、リテラシー、算数など全てを巻き込んで学習を構築できる。
中学校では小学校よりも時間がとりにくくなるが、同様に社会科、特に地理の時間に国際交流が行われる。また、クラブ活動や優秀な学生に向けた授業でも国際交流が行われている。
日本の状況を考えると、小学校では総合的な学習の時間で国際交流が一番盛んに行われている。交流活動の他に、環境や福祉に関する教育も行われている。中学校では、選択国語、社会、英語、クラブ活動で国際交流を目指している学校がある。
異文化を学ぶことによって、子供たちの視点が広がっていく。国際交流をすることによって、相手の国の文化に接することで、相手の国の日常習慣などに気づく他に、相手を通して自分の国の日常習慣に気づくことができる。
本やインターネットなどで調べれば簡単に色々な情報が手に入る。また経験者に尋ねても色々なことを知ることができる。調べることも重要であるが、ある程度誰にでもできる。それを伝えることがさらに重要である。相手に自分の文化に興味を持ってもらおうとすることは、自分の評価にもつながり、また自分の文化を伝えたいという気持ちの向上と表現能力の育成になる。
「Japan UK Live」は国際交流のための一つの入り口である。我々は日英交流に16年ほど携わっており、インターネットでの交流においても日英交流の様々な課題が同じように繰り返されていることに気づいた。そこで、交流学習における問題点を解決するために、この「Japan UK Live」を始めた。
「Japan UK Live」の最大の特徴は完全にバイリンガルであるという点である。英語のページと日本語のページにはまったく差がないように翻訳される。子供たちは母国語で思う存分伝えたいことを伝えることができる。
国際交流の日程を組むことは、先生たちにとって大変負担になるが、「Japan UK Live」では、設定されたテーマを元に、交流をすることができる。こちらでテーマを設定することによって使いやすくしている。また、掲示板では写真を用いながら議論をすることができる。小学校4年生から中学生が主に利用している。
「いっしょにホームページ」では、日本とイギリスの特定の学校同士がペアを組んでホームページを作る。掲示板形式のサイトで2つの学校の交流が始まる。たとえば、互いの教室の写真をアップして比較・考察したり、環境問題といったテーマを設定してディスカッションを行う。ネット上に収まる必要はなく、ビデオ制作なども行っている。
先生用に各種の専用のワークシートが用意されている。低学年用と高学年用があって、ここに書き込むと、サイト上の「みんなのひろば」に公開される。また、交流相手を探すためのサポートがある。また今までの交流の題材やケーススタディを閲覧することができる。先生たちのためのメーリングリストが各種あり、自由に参加することができる。投稿されたメールは日本語と英語に相互翻訳される。
生徒から非常に好評だったのは、日本の学校が自分の学校を紹介する冊子を、イギリスの学校に送ったことである。
離れた学校と学校をインターネットで結び、子どもたちが掲示板やテレビ会議で交流しながら学ぶこと。
宮城と宮崎の小学校同士が、ブログで朝顔の観察日記をつけあった例を紹介する。地域により朝顔の成長の速度が異なる。それに気づいた小学生同士が原因の考察をしたり、それを記述した結果を先生がまとめてブログにアップを行った。
次に、宮城と熊本の小学校のテレビ会議の例を紹介する。海外とのテレビ会議はつながった喜びに対することが大きいが、国内になるとシビアになる。質問されるとすぐに答えなくてはならない、知識を持っていなくてはならないなど、突っ込み合いが可能になる。また、大人同士だと気を遣い合ったりするが、子ども同士だとそういったことがあまりない。このケースではホームページ作成のテレビ会議を行った。写真の質や文字の読みやすさについてコメントを交わした。
海外のシリアと日本の小学校の交流では、日本の生徒たちは、シリアは情勢的に不安定な地域であるが、実は犯罪率が低かったり、きれいな家に住んでいると言うことがわかった。
交流学習の状況は様々であるが、1台のインターネットにつながるPCがあればそれで可能である。歴史的に一番古い交流学習は1920年代、フランスで始まったフレネ教育である。当時学校に広まったガリ版印刷機を用いて、印刷したものを他の学校に伝えるという形で行われた。
交流学習に似ているものとして、「遠隔学習・遠隔授業」がある。また似て非なるものとして「交流教育」があり、これは健常者と障害者や、離島などと本当の交流をするものです。
交流学習が実施されるのは、総合的な学習の時間が一番多く、続いて選択科目、最近では社会科や国語の教科書の発展学習でも推奨されている。
交流学習に関する研究については、論文の数は2003年にピークを迎えたが、その後減っている。これは、交流学習が一般化してきたためと考えられる。
交流学習で用いられるメディアは、インターネットの他に、携帯電話やFAX、宅配便や対面交流など、使えるものは何でも使うといった状況である。
交流学習との出会いは、離島の御所浦町にいた時代に始まる。パソコン通信で東京都の子どもたちから 島について質問されたのがきっかけである。当時担任していた5年生が、船での通学、体育はプールではなく海で泳ぐことなど特徴的なことを紹介した。
今のインターネットを用いたものとちがい、全て文字ベース、パソコンは私物、低速な回線、通信費は自腹だった。
現在の下浦第一小学校では、一人一台のインターネットにつながったパソコン、教室にはプロジェクタとスクリーンがあるなど充実したものになっている。教科書もそのような環境を前提とした項目が盛り込まれている。掲示板やeメールを使って、各地の方言(国語科)や産業(社会科)を、調べようという項目がある。
交流学習のタイプは、以前は社会との交流が重視されていたが、今は学校間交流が重視されている。これは交流から学ぶプロセスへの移行を意味しており、学習方法として市民権を得てきたことの表れである。
「おこめ」をテーマに全国各地の学校と交流を行い、熊本の小学生が気づいたことは、桜前線は北上するのに、暖かいはずの熊本地方が日本一田植えが遅いということである。その疑問から自分たちの地域を調査する実践を行った。その結果、裏作という地域特有の習慣が見えてきた。
また熊本は十分暖かいので、多少田植えが遅れても米が育つということに子どもたちは気づいた。熊本では稲作は赤字になることさえあるが、それでも稲作をやる人たちの米への思いというものもまた知ることができた。
他にも、ISO14001を取得している天草市の特色を生かして、「ごみのゆくえ大調査」を行った。仙台市のゴミの出し方マニュアルを見て、天草市との差に子どもたちは大変驚いてた。細かい天草市に対して、おおざっぱな仙台市との違いは、「分けてから集める」か「集めてから分けるか」のちがいである。他にも焼却場の性能の違いなどを理解した上で、リサイクルを重視しているのはどちらも同じでも、その方法が違う、ということを理解した。
最近、中学生の文章を書く能力が落ちてきていると実感している。文章を書くのが苦手な子どもの特徴は、
といったものであるが、書くことなしに確かな言語能力の定着や思考の深まりは望めない。 豊かに表現する力は「書く」力に支えられていると思うからである。それは、
であって、これらによって豊かな表現力が実現される。
この「書く」力のレベルアップを図る場として最適であると考えられるのは、
であり、私は「Japan-UK Live!」がこのような場の機能を備えていると考えた。
「Japan-UK Live!」では日本語で交流ができるため、言葉の壁がない。よって国語で国際交流が可能である。このことは、「書いてみたい」、「自分も書けそうだ」という動機付けになる。動機は、
といったものである。また掲示板の役割は、
であると言える。また、 掲示板を使う上でマナー指導もできる。
などを心がけさせるようにしている。
「Japan-UK Live!」の性質と効果には以下のようなものがある。
「Japan UK Live!」の活用から
という国語科の目標にも効率よく近づく手応えを感じている。
「Japan-UK Live!」参加メンバーの昨年度はじめと今年度初めの書く能力と読む能力について比較したところ、平均未満が一年後はほとんどの項目で平均を上回っていた
続いて、ラウンドテーブルが行われ、会場から寄せられた質問に登壇者の方々が答えました。
ポッター:イギリスから約10校、日本から35校くらいです。地方の学校は含まれています。またほとんど公立の学校です。
ポッター:特にないのですが、大きい場合は工夫が必要です。6人なら6人、300人なら複数合わせて300人に対応するなど、日英双方の数を合わせています。
稲垣:日本国内の場合は教育関係のメーリングリストや、前任校の先生などとマッチングする場合が多いようです。
ポッター:日英交流の場合は、試験の時期を考慮すると9月から10月が一番やりやすいです。
稲垣:国内ですと、1学期に顔合わせして、2学期に詰めて、3学期にまとめるというパターンが多いです。夏休みに計画を練って2学期に実践することもあります。また、小学校4・5年生の社会科の単元では、交流したら面白そうなものが多いのでその時期かなと思います
ポッター:オフィスにいるのは3人です。翻訳チームは10人くらいです。学校が増えたら人も増やそうと考えています。
ポッター:「Japan UK Live!」はボランティア団体ですが、バブル時代に設立したため、そのときのファンドで運営しています。まだしばらくは大丈夫そうです。
上村:転移は具体的に測れていないのが事実です。ただ、交流学習を経験した生徒達は、いろいろな人に文章を書くのがうまいと指摘されます。それは効果かもしれません。
上村:やり始めたときはほぼ100%応援してもらっていましたが、最近はぽつぽつと「いらないことはしないでくれ、もっと国語や算数をやってくれ」という雑音も出るようになってきました。
稲垣:プロジェクトの内容によりますが、逆に2週間でできるプログラムなどがあります。
金:「Japan UK Live!」では準備時間が必要ありません。
稲垣:逆にどのようなツールを使ったらよいかと考えることが情報教育で必要なことだと思います。学校間なので時間の同期が取れない場合は掲示板が都合が良く、それをベースにたまにテレビ会議を用いたりしています。
学校間交流では,「異なる」ことや「同じ」ことを利用して,子どもたちの認識を広げたり深めたりしています。「異同」の概念は世の中では巧みに使い分けられていますが、その使い分けに気づくことが世の中を見る上で大きな力になるのではないかと考えます。学校間交流にこのような効能があることをアピールするのが教育者、研究者、実践者の課題であります。
支援が無くても運営できる先生は中にはいますが、多くの先生は超多忙です。そのような先生をどうサポートするか,支援するシステムと運営母体が課題です。
教育の注目点は色々なところを行ったり来たりします。しかし本質は「どれも大事」ということです。先生はそれぞれをきちんとやっていても、保護者や社会は注目点ばかりを見ようとしますから,見当違いなことをやっている様に見えてしまうことがあります。学校間交流がもてはやされる土壌は,現在の基礎基本の徹底の土壌とは少し違います。ただ、また振り子は戻ってくるので、そのときのためにこれからもがんばっていきましょう
交流学習ということは、単に他者の文化を学ぶためにあるのではないということがよく理解できました。特に、コミュニケーションによる他文化理解のプロセスを経ることで、自分の文化への理解の深化が起こるということは重要な点であると思います。他にも今回紹介された交流学習の成果事例から、国際間や遠距離を行き来する大げさな交流を仕組まずとも、日常の教室空間でも応用可能な知見が多く見出せると感じました。