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Beating 第53号
2008年度Beating特集「5分で分かる学習フロンティア」
第7回:社会科教育のフロンティア「人」

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  東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」   
  メールマガジン「Beating」第53号     2008年 10月28日発行    
                        現在登録者1668名    
  2008年度Beating特集「5分で分かる学習フロンティア」
   第7回:社会科教育のフロンティア 「人」

           http://www.beatiii.jp/?rf=bt_m053
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┃★CONTENTS★
┃■1.  特集:2008年度Beating特集「5分で分かる学習フロンティア」
┃
┃    第7回:社会科教育のフロンティア 「人」:
┃   東京工業大学附属科学技術高等学校 遠藤信一 教諭 インタビュー
┃                「歴史的思考力を身につけさせるために」
┃                        
┃
┃■2. 【お知らせ その1】「UTalk: 人と動物のおつきあい」
┃
┃■3. 【お知らせ その2】情報学環・福武ホール グッドデザイン賞受賞
┃
┃■4.  編集後記
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■1. 特集:2008年度Beating特集「5分で分かる学習フロンティア」
    第7回:社会科教育のフロンティア 「人」:
   東京工業大学附属科学技術高等学校 遠藤信一 教諭 インタビュー
   「歴史的思考力を身につけさせるために」
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今年度のBeatingでは、情報通信技術が導入されて間もない教科や領域に注目
し、その教科や領域で活躍する人や理論、プロジェクトを紹介しております。
題して「5分で分かる学習フロンティア」!!その第7回となる今月からは、領
域を”社会科教育”に変えてお届けいたします。

みなさん「世界史」という言葉を聞いてどんなイメージを持たれますか?
「暗記するのが大変」「授業が退屈」「字ばっかり」「何の役に立つかわから
ない」。学生時代、こんな思いをしていた人も多いのではないでしょうか?

今回は、そんな悩みを克服すべく現場の第一線で活躍されている遠藤信一先生に、
最新の世界史学習のあり方についてインタビューをしてきました。

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■歴史的思考力を育てる

○インタビュアー:
 世界史教育の目標は何だと考えられていますか?

●遠藤先生:
 ふつう世界史の場合は、いかに歴史的な事実を生徒に効率的に覚えさせると
 いうところに力点が置かれていますが、本来は歴史的思考力を養うというの
 が目的です。歴史的思考力の全体像は複数の要素があると思いますが,私は
 その中でも、歴史に対する批判的な思考力を育てることを重視しています。

○インタビュアー:
 ではその歴史に対する批判的な思考力を養うにはどうすればいいのですか?

●遠藤先生:
 批判的な思考力を養うためには、歴史の知識理解の前提として、生徒が自分
 で史実を多面的に分析し、自分なりの視点で因果関係を組み立てていけるよ
 うにする力が必要になります。現在の教育では、この力は既に身についてい 
 るものとして重視されていません。ところが実はどの教育段階でも教えられ
 てはいないのです。

○インタビュアー:
 では方法論として、因果関係を組み立てさせるポイントは何でしょうか?

●遠藤先生:
 実は歴史には、同じような現象が起きて同じような末路を辿っていくという
 ところがあるので、その最大公約数と言いますか、一種の法則みたいなもの
 を生徒に見出させる。それで同じような公式が現在のものや他の時代、他の
 国にも当てはまるということがわかってくると、歴史の関係性が全体として
 捉えられるのではないかと思うんです。
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■歴史が動いていく「状況」を把握させる
○インタビュアー:
 歴史的思考力を培う手段としてコンセプトマップ(注1)を使われていますが
 どうしてコンセプトマップを選んだのですか?

●遠藤先生:
 1つの史実が偶然起こったものではなく、複数の要素が絡み合っていること
 を理解するには、コンセプトマップは有効です。私の場合は主に人物とか大
 きな事件を中心にして、それを取り巻く他の状況がどうであるかということ
 を深く考えさせていきます。それによって、どういう力が働いているから歴
 史が動いたのかということを生徒にわからせたいのです。こういった客観的
 な分析は、コンセプトマップ指導によって思考させることで培うことができ
 ると思ったわけです。


注:遠藤先生の指導方法では、ある程度の知識的な授業が終わったら、各時代
 のコンセプトを挙げさせ、それらの影響関係を矢印で結ばせつつ、どういう
 関係なのかを言葉で書かせています。政治など、周りの状況を正確にわから
 せることを大事にしている点が、他のコンセプトマップの使い方とは違うと
 ころです。

○インタビュアー:
 コンセプトマップを使った生徒の反応はどうでしたか?

●遠藤先生:
 最初は戸惑っていました。でも慣れてくると次第に描けるようになってきて
 「「〜だから…になった」というロジックというものを大切にしなければい
 けないんだ」というところがわかってきたようです。後は論述問題でも、事
 件の背景という状況知識が備わってくると、因果関係を理解した上で解答で
 きるようになりました。ある程度面で捉えることができるようになってきて
 いるのは感じます。他の要因もありますが、実際、前年よりテストの成績が
 10点くらい上がりました。歴史が面白いという意見も聞かれました。

○インタビュアー:
 生徒の、歴史の学習方法も変わりましたか?

●遠藤先生:
 コンセプトマップのようなものをやっていれば、世の中が動いている時の要
 因を見つけ出すという作業から取り掛かっていきますので、当然一つ一つの
 ものを大切に見ますし、「これは何と関係があるんだろう」というように学
 習者自身で考えるようになりますよ。
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■ICT(情報通信技術)のインパクトと限界
○インタビュアー:
 今回ICTは使われていますか?

●遠藤先生:
 はい、ICTを活用した教授活動ゲーム(注2)という、東京工業大学准教授の松
 田稔樹先生が作られた意思決定ゲームをゲーム盤として利用させていただい
 ています。私はコンテンツであるコンセプトマップやドリル型教材をスクリ
 プトに書くことで、ゲーム盤上で動作させて、生徒に体験させています。

○インタビュアー:
 ICTを使うことのメリットは何ですか?

●遠藤先生:
 コンセプトマップの描き方を指導するにあたって、紙に描かせる一斉授業で
 は十分に形成的評価をすることが出来ず、特に個に対応できないことからICT
 教材を使っています。他にも、教材を通して自分が理解していないというこ
 とを知らせることができるのも大きいです。また、ICTを活用する教材の場合
 はやらないと進めないわけですから、100%授業に参加するようになります。

○インタビュアー:
 逆に限界のようなものも感じますか?

●遠藤先生:
 進み具合に合わせることはできるんですけど、描いたもののどこが悪いから
 ここを直しなさいっていうフィードバックは正しく表現できません。本来生
 徒が求めているものはそこなのですが、今はまだ出来ていません。
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■世界史学習のフロンティアへの鍵—コラボレーション—
○インタビュアー:
 今後世界史教育はどう変わっていくと思いますか?

●遠藤先生:
 文章だけの教科書ではなくなってきているので、やっぱりヴィジュアルなも
 のが学習に影響を与えているっていうのは認知されていると思います。私も
 山川出版社さん達と一緒に作った『ニュースで見る世界史』というDVDを使
 っています。それと、NHKさん達と一緒にやった『音の世界史』というCDも
 使っています。民俗音楽やコーランなど、やっぱりその時代のことを「音」
 で知るというのは、生徒の理解にとって抜群に効くと思いますね。黒板だけ
 での授業では、もう生徒の興味喚起すらできないんじゃないかと思います。

○インタビュアー:
 今取り入れたいと思っているものはありますか?

●遠藤先生:
 アニメーションを使ったロールプレイングゲーム教材を使いたいです。歴史
 上の体験できないシチュエーションを作って学習者をプレイヤーとして置か
 せることで、ゲームのように次から次に追い込むというか、本気にさせるよ
 うな形でやらせたらなと思っています。ただ、発想はあってもシステムを作
 るには技術系の人たちの知恵がないと文科系だけではできないですよね。特
 にICT教材の中に音楽や動画を取り込むのは荷が重い。だから、今回の東工
 大の松田先生のように、色々な人たちのご支援があってこそ、こういう世界
 史の授業は可能になっていくのだと思います。
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■まとめ

世界史を状況のレベルで捉えさせ、生徒の視点で影響関係を考えさせるという
学習観。さらに生徒の興味を喚起させるために、「目」と「耳」、さらには
「肌」で感じられるようにしようと取り組む姿勢は、日々子どもと触れている
現場の先生だからこそ見えてくるものなのかもしれません。その意味で、今後
の歴史学習に大きな示唆を含んだ取り組みだと思います。また、これまで歴史
教育というと、教師が一人で史料を駆使するものが主流だったのに比べ、これ
からはコラボレーションが必要だという認識されていることから、歴史教育の
大きなうねりを感じました。先生のこれからの益々のご活躍を心よりお祈りし
ております。最後に今回ご紹介頂きました遠藤先生のご研究や参考文献を挙げ
て頂きましたので、ご興味がある方はぜひお読みください
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●注釈
注1:コンセプトマップとは、概念を表すノードとそれらを結ぶリンクから構
   成されており、概念と概念とを命題(「〜は〜である」)で関係づけて
   図式化することにより、知識の様子を目に見える形で表現したものを指
     します。
  (『教育工学事典』日本教育工学会編.実教出版. 2000年より)

注2:教授活動ゲームとは、教員の力量形成と、授業研究とを支援するために
     開発されたゲーミング・シミュレーション・ツールです。これは汎用の
     ゲーム実行環境であり、「模擬授業ゲーム」と「意思決定ゲーム」とい
     う2つのモードがあります。遠藤先生の教材は「意思決定ゲーム」に
   あたります。
   (http://www.et.hum.titech.ac.jp/IAGproject.htmlより)


●参考文献
・遠藤信一・内野智仁・松田稔樹(2007) 高校世界史教育における教授活動ゲ
  ームのコンセプトマップ機能の活用. 日本教育工学会第23回全国大会講演
  論文集, 193-194
・松田稔樹・遠藤信一(2008)教授活動ゲームによる「世界史」用授業設計
  訓練環境の構築. 日本教育工学会研究報告集3号, 103-110
・遠藤信一・松田稔樹 (2008) 新しい時代に対応する学力とそれを育む授業・
 カリキュラムへの提案 〜分析力に着目した「技術者モラル」と「世界史」
 の授業実践を通して〜.日本教育工学会第24回全国大会論文集(課題研究),
 157-160
・遠藤信一 (2007) ICTを活用した世界史定着演習「遠藤の世界史」の実践
 〜行列の出来る「遠藤の世界史」〜.実践事例アイディア集 Vol.15 p38-39.
 (社)日本教育工学振興会
・『音の世界史』遠藤信一・杉山登・渡辺修司編 
  山川出版社・NHKソフトウエア. 2000年
・『ニュースで見る世界史』遠藤信一・渡辺修司Vol.1,2 山川出版社. 2003年
・東京工業大学 大学院社会理工学研究科 松田研究室
 http://www.et.hum.titech.ac.jp/
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(特集記事協力:
池尻良平/東京大学 大学院 学際情報学府 修士1年)
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次号は社会科教育のフロンティア「プロジェクト」です。
「5分で分かる学習フロンティア」どうぞお楽しみに!
ご意見・ご感想もお待ちしております。

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■2. お知らせ その1「UTalk: 人と動物のおつきあい」のご案内

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UTalkは、さまざまな領域で活躍している東京大学の研究者をゲストとして迎
え、カフェならではの空気感を大切にしながら、ゲストとの会話をお楽しみ
いただくイベントです。11月は、中国や日本で、人と自然環境の関わりにつ
いてフィールドワークを重ねている菅豊さん(東洋文化研究所 教授)に、
調査の様子やそこから見えてくる社会についてお話いただきます。

みなさまのご参加をお待ちしています。

日時: 11月8日(土)午後2:00〜3:00
場所:UT Cafe BERTHOLLET Rouge
(東京大学 本郷キャン パス 赤門横)
http://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/access.html
料金:500円(事前申し込み制/ドリンク付き)
定員:18名
申し込み方法: (1)お名前 (2)ご所属 (3)ご連絡先(メール/電話)
(4)イベントをお知りになったきっかけ、をご記入の上、utalk2008@ylab.jp 
までご連絡ください。

※申し込みの締め切りは 10月31日(金)までといたします。
なお、申し込み者多数の場合は抽選とさせていただく場合がございます。 
ご了承ください。

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■3. お知らせ その2 情報学環・福武ホール グッドデザイン賞受賞

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BEATの活動拠点である情報学環・福武ホールが、2008年度グッドデザイン賞を
受賞しました。

http://www.g-mark.org/search/Detail?id=34556&sheet=outline

この場がコンセプト通り「学びと創造の交差路」でありつづけるよう、運営に
努力して参ります。今後ともよろしくお願い申し上げます。

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■4. 編集後記

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
Beating第53号はいかがでしたでしょうか。

遠藤先生の世界史の学習支援システム、おもしろかったですね。私も高校の頃、
ただ、ひたすら意味を考えずに暗記していたことを覚えています。ローマの五
賢帝とか長い横文字の名前とか覚えるのに苦労した記憶があります。ですが、
世界史が大好きでした。単にヨーロッパへの憧れもあり、世界史が好きだった
という理由だけで、大学は西洋史系の専攻に進んでしまいました。そのためか、
「なぜ、この専攻を選んだのだろう」とふと疑問に思い、大学2年の終わりに
専攻を心理学系に変えました。遠藤先生の授業のように、中等教育の段階で各
科目についてしっかり考えること、思考力を身につけさせるということは自分
自身がやりたいことは何か、また自分進路について考えるいいきっかけにもな
ると思いました。

最近、大学ではキャリア教育をどう行うのかというのが1つの大きな課題とな
っています。普段の講義でも、ただ内容を教えるのではなく、内容がどのよう
に受講者の将来に役に立つのかを説明することで、受講者に自分のキャリアに
ついて考えるきっかけになります。就職活動が差し迫った時期にいきなり自分
のキャリアを考えることは難しいと思いますので、普段の活動からこのような
機会をいれておくといいのではないでしょうか。私は英語の非常勤をやってい
た時、各コマの冒頭で講義内容がどう将来に役に立つか説明していたのですが、
セメスター最後のアンケートで、「役に立つと思った」、「将来を考えて、留
学したいと思った」などの学生からの意見もあり、効果があったと実感してい
ます。そろそろ11月ですね。就職活動を始める人も増えてきますので、ぜひ
やってはいかがでしょうか。


それではまた来月。

「Beating」編集担当
山田 政寛(やまだ まさのり)
yamada@beatiii.jp

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「Beating」編集担当 山田 政寛
(東京大学 大学院 情報学環 特任助教)
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□発行
東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」

Copyright(c) 2008. Interfaculty Initiative in information Studies,
The University of Tokyo. All Rights Reserved.
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