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Beating 第54号
2008年度Beating特集「5分で分かる学習フロンティア」
第8回:社会科教育のフロンティア「プロジェクト」

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  東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」   
  メールマガジン「Beating」第54号     2008年 11月25日発行    
                        現在登録者1680名    
  2008年度Beating特集「5分で分かる学習フロンティア」
   第8回:社会科教育のフロンティア 「プロジェクト」

           http://www.beatiii.jp/?rf=bt_m054
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┃★CONTENTS★
┃■1.  特集:2008年度Beating特集「5分で分かる学習フロンティア」
┃
┃    第8回:社会科教育のフロンティア 「プロジェクト」:
┃                    慶應義塾普通部 「地球地図の学校」
┃                        
┃
┃■2.【お知らせ】「UTalk: 言葉のしくみ 脳・認知から離れて」
┃
┃■3. 編集後記
┃
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■1. 特集:2008年度Beating特集「5分で分かる学習フロンティア」
    第8回:社会科教育のフロンティア 「プロジェクト」:
   慶應義塾普通部 「地球地図の学校」
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今年度のBeatingでは、情報通信技術が導入されて間もない教科や領域に注目し、
その教科や領域で活躍する人や理論、プロジェクトを紹介しております。

題して「5分で分かる学習フロンティア」!!その第5回となる今月は、”社会
科教育”の「プロジェクト」編です。

今回は社会科の中でも地理教育に着目し、デジタル化された地図である「地球
地図」を使用したプロジェクトを紹介します。地理を学習するときに必ずと言
っていいくらい必要な副教材は地図帳です。地図は国や都道府県市町村の区切
りだけではなく、山の高さ、海の深さ、湾岸地域の工業地域などの情報を付与
し、関連させることで、様々な情報を得ることができるツールです。

従来は地図帳は与えられるものでした。しかし、Google Mapなど、使用者自身
のためにカスタマイズすることができるの地図ツールが最近広まってきており、
学習者自ら作り上げてゆき、教員−学習者間、または学習者間におけるコミュ
ニケーションを通じて協調作業を行い、学習していくというプロセスも注目を
浴びてきています。今回は社会科教育のフロンティア「プロジェクト」編とし
て、慶應義塾普通部で行われた「地球地図の学校」プロジェクトを紹介します。

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プロジェクト名:「地球地図の学校」
国・発足年  :2006年~
代表者    :太田弘
所属     :慶応義塾教諭(普通部)
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■地理教育について
地理教育には絶対に欠かせないものがあります。それはずばり、地図です。地
理教育では伝統的に地図作業を行っているものが多く、近年になってその有効
性も明らかにされています。さらにここ10年、GIS(地理情報システム)の登場
によってより精密な地図作業もできるようになってきています。現代において
はもはや地図は「与えられるもの」ではなく、「作っていくもの」になってい
るのです。ただ、従来の地図作業はあくまで教室内でのことでした。今回はそ
の精緻な地図作業を教室を超えて行おうとしている新しい地理教育のプロジェ
クトについて紹介したいと思います。
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■地球地図について
その動きの発端になったものは、1996年に発足したISCGM
(International Steering Committee for Global Mapping)による地球地図
(Global Map)プロジェクトです。このプロジェクトは、1992年の地球サミッ
トで締結された「アジェンダ21」において、世界的な環境問題を科学的に取り
組むためには、世界的な地理データを作り、共有することが重要だという認識
が高まったことから始まりました。

このプロジェクトは発足当時から日本の国土地理院を始め、世界各国の公的な
機関によって進められ、2008年現在では179カ国が参加し、53カ国がデータを
公開しています。面積比では実に世界の陸上部分の約96%を占める国が参加し
ており、約50%が公開されていることになります。

■地球地図とはどんな地図?
地球地図とは、「標高」、「植生」、「土地被覆」、「土地利用」という4つ
の基本的なデータのうちの一つをベースとして選び、その上に「人口集中域」
、「水系」、「交通網」、「境界」のデータを好きに重ねていくことができる
デジタル地図です。

また、地図上に統計データや写真やコメントを足したり、共同で地図を作って
いくこともできます。地球地図自体は、環境保護や経済成長についての世界的
な会議において、データを共有しながら進められるようにすることを目的とし
ています。
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■教育現場への応用:「地球地図の学校」
そしてこの地球地図を教育現場に利用しようとしたのが2006年度から日本で始
まった「地球地図の学校」プロジェクトです。これは、GIS(地理情報システ
ム)教育で活躍されている太田弘教諭を中心に、学校の先生や産官学の様々な
ところから集まった「地球地図の学校」実行委員会によって推し進められてい
ます。

このプロジェクトの主な目的は、世界の子ども達が直接お互いの国、地域のこ
とを伝え合い、学びあうことで、みんなで地球の未来について考えていくこと
にあります。これは、現在の地理の学習指導要領にも沿っています。(注1)し
かし、単にインターネットやテレビ会議を通じてお互いの国の情報を交換しあ
う遠隔授業と違い、地球地図を使うことで、詳しく話をするためのデジタルデ
ータがお互いに簡単に扱え、共同で加工して情報を載せることができます。地
球地図を精緻な地図作業学習の素材として使いつつ、言語を越えたコミュニケ
ーションツールとして役に立たせるという狙いがあるようです。

■地球地図を使った国家間授業の実践例
国家間の遠隔授業としては、2006年にフィリピン−日本間、2007年にはタイ−
日本間の授業が行われました。ここではタイのナコンシタマラートに住む中高
生と日本の慶応義塾の中学生の間で行われた2007年の授業について紹介したい
と思います。

まずは、日本の生徒がTV会議システムを通して日本の国土や歴史や流行につい
て説明をします。画面には交通網を載せた地球地図が使われ、地図には富士山
や道路などの写真がふんだんに貼られています。それを見てタイの生徒からは、
タイのお寺やレストランはあるかとか、有名な食べ物は何かとか、観光で有名
なところはどこか、といった質問がどんどん出てきたようです。

一方、タイの発表では、始めに地球地図のデータを使って、気候の説明や様々
なお寺の説明をした後、ナコンシタマラートが養殖エビの産地としてタイでNO
.1であることを活かして、「海の森マングローブ」という発表をしました。
初めに地図で養殖の場所を示しながらマングローブの植生を説明し、次に元々
この土地は水田だったこと、外部の人たちによってエビ養殖場になったこと、
そのおかげで収入が増えたこと、代わりにエビ養殖場から有害な化学物質が海
に流れて環境を破壊していることを現地の写真を用いながら説明していました。

■授業後の感想について
日本の生徒は、詳細なデータが載っている地図を見ながらタイのことを知り、
付随して環境問題に関する生の写真を見ることで普段自分達が食べているエビ
が養殖されている現地の問題を知り、非常にショックを受けたようです。

一方タイの生徒は、地球地図を通してデータや資料を使いながら、客観的に自
国の環境問題を分析することで、母国のことをより深く知ることができたよう
でした。双方共に、将来世界規模で自分達が何を考えていかないといけないか
について考える良い機会になったようです。
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■地理教育のフロンティア
今回のプロジェクトは、地理教育で話される言語はバラバラでも「地図」なら
ば世界共通のものになることを上手に利用しています。その上で、一種の世界
規模でのジグソーメソッドとして、地図作業を通した遠隔授業を行っているの
だと思います。今回のように言語が異なる国の生徒同士でも興味を持ってどん
どん質問を投げかけることができたのは、地球地図の特徴のおかげだといえる
でしょう。

また、既存の決められた内容を教師が説明する従来の地理教育と違い、生徒達
で精緻な地図作業を行うことで自分の国についてより深く知りることができて
います。さらに、それを国外の人に伝えたり、逆に現地の生徒たちによって直
接その地域の話を聞いたり、リアルタイムの写真を見せてもらうことで、より
生々しい地理教育を生徒同士で行えるようになりました。いわば地理の教材を
世界各国の生徒が作りあい、その地域の専門家として教えあう新しい教育の形
が実現しているのだと思います。

これからの地理教育では、世界共通の大きな地図をもとに世界中の子ども達
が知を集め、教えあう時代が来るのかもしれません。

なお、以下の参考URLから地球地図を無料でダウンロードすることができます。
また、オリジナル地球地図のコンテスト大会も開かれているので、皆さんもご
自分の地域の地図を世界に発信してみてはどうでしょうか。
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注1:2008年現在の学習指導要領では、地理Aは「現代世界の地理的な諸課題を
地域性を踏まえて考察し,現代世界の地理的認識を養うとともに,地理的な見方
や考え方を培い,国際社会に主体的に生きる日本人としての自覚と資質を養う。
」、地理Bは「現代世界の地理的事象を系統地理的,地誌的に考察し,現代世界
の地理的認識を養うとともに,地理的な見方や考え方を培い,国際社会に主体
的に生きる日本人としての自覚と資質を養う」が目的となっています。
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●参考URL
・「地球地図」プロジェクトの公式サイト
 http://www.iscgm.org/cgi-bin/fswiki/wiki.cgi
・「地球地図の学校」プロジェクトの公式サイト
 http://www.globalmap.org/project/school.html
・みんなの地球地図ブログの公式サイト
 http://www.globalmap.org/gmblog/
・小林岳人 紙上での地図作業学習におけるGISの役割 学習者がコンピュータ
 を操作しないGIS教育
 http://homepage2.nifty.com/taketo-kobayashi/paper/paper04d.pdf
・ジグソーメソッドについて
 http://beatiii.jp/beating/018.html
・学習指導要領(地理歴史)
 http://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/990301d/990301c.htm
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(特集記事協力:
池尻良平/東京大学 大学院 学際情報学府 修士1年)
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次号は社会科教育のフロンティア「理論」です。
「5分で分かる学習フロンティア」どうぞお楽しみに!ご意見・ご感想もお待
ちしております。

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■2. お知らせ 「UTalk: 言葉のしくみ 脳・認知から離れて」

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UTalkは、様々な領域で活躍している東京大学の研究者をゲストとして 招き、
毎月開催するイベントです。カフェならではの雰囲気、空気感を大切にし、気軽
にお茶をする感覚のまま、ゲストとの会話をお楽しみいただける場となっていま
す。12月は、図書館情報学が専門の影浦峡さん(教育学部准教授)に言葉や意味
を論理的に考える手法についてお話いただきます。

■ゲストの紹介
影浦峡(かげうらきょう)

東京大学大学院 教育学研究科 生涯学習基盤経営コース 准教授。
1964年生まれ。PhD (学術博士)。
専門分野は、情報メディア論・専門語彙論・情報管理学基礎論。

理論的には、本をはじめとする情報の媒体と言語の構造を統一的にとらえ、情報
媒体と言語情報の構成との相関関係を数理的に高い粒度かつ現実の情報流通に介
入する契機を明晰に示すようなかたちで明らかにしようと試みている。
その上で、現実の介入点としての図書館、社会教育機関・学校などの位置を考え
ている。

また、このような視座に立ち、理論から工学的応用まで様々な取り組みを行って
いる。

WEBページ
http://panflute.p.u-tokyo.ac.jp/~kyo/index-j.html

ブログ
http://kyokageura.seesaa.net/

■ 日時
12月13日(土)午後2:00~3:00

■ 場所
UT Cafe BERTHOLLET Rouge
(東京大学 本郷キャン パス 赤門横)
http://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/access.html

■ 料金
500円(要予約)

■ 定員
18名

■申し込み方法: (1)お名前(2)ご所属(3)ご連絡先(メール/電話)(4)この情報
をお知りになったきっかけ、をご記入の上、
utalk2008@ylab.jpまでご連絡ください。

■ 申し込みの締め切り
12月5日(金)
※なお、申し込み者多数の場合は抽選とさせていただく場合がございます。 
ご了承ください。

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■3. 編集後記

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
Beating第54号はいかがでしたでしょうか。

今月のお話は地球地図を使用した国際交流学習プロジェクトのお話でした。
この話は地図というツールを媒介した外国語教育や異文化理解教育でもあると
思います。地図、中でも私たちの生活範囲にある地図に私たちがわかる情報を
付加して、国際交流に活かすことで、双方の文化理解につながりますし、外国
語学習の強い動機付けにもなると思います。今月のテーマでは中学生を対象と
した内容になっていますが、これは大学生でも大切なことだと思います。日本
の大学には多くの留学生が在学しています。留学生たちがどのような考えを持
って、日本で勉強しているのか、特に国費留学生は強い使命を背負って、日本
で勉学をしています。しかし、留学生の考え、事情などその背景などは私たち
は普段あまり意識していないように思います。この地球地図プロジェクトのよ
うな国際交流学習により、留学生の出身、さらには出身国での生活環境などの
お話を「地球地図」のようなカスタマイズすることができるデジタル地図を媒
介にして聞くことでお互いの相互理解が深まり、よりよい学習コミュニティー
ができていく可能性があると思います。大変興味深いプロジェクトでした。

もうあと数日で、12月です。早いですね。もう2008年が終わってしまいます。
やり残したことはみなさんないですか?私は研究もあるのですが、趣味のフッ
トサルを思い残すことなく、やりたいです。今年度末は実家に帰らないので、
年末ぎりぎりまでフットサルができるのではないかと期待しています。

それではまた来月。

「Beating」編集担当
山田 政寛(やまだ まさのり)
yamada@beatiii.jp

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「Beating」編集担当 山田 政寛
(東京大学 大学院 情報学環 特任助教)
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□発行
東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」

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